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となりのテディベア/ぽんずのみちくさ Vol.96

片渕ゆり(ぽんず)<連載コラム>毎週火曜日更新
ほんとに大切にしたい経験は
履歴書には書けないようなことばかり
旅と暮らすぽんずが送るコラム

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となりのテディベア/ぽんずのみちくさ Vol.96

イギリス人の3人に1人は、ぬいぐるみと眠っており、中には「ぬいぐるみなしでは眠れない」「出張先や旅行先にもぬいぐるみを持参する」と回答した人もいるーー。

数年前にイギリスの家電メーカーが行った調査では、そんな結果が出たそうだ。この数字を素直に信じるべきかどうかは、自信が持てない(わざとお茶目な回答をした人だって少なからずいたんじゃないか、なんてことも思う)。

けれどたしかに、旅先に連れてこられたぬいぐるみには、何度か遭遇した。

そのうちの一つは、まさにイギリスでの出来事。ハイランド地方という、北の方にある寒いエリアを訪れたときのこと。フォートウィリアムという、そんなに大きくはない町のこぢんまりとしたホステルに泊まっていた。私の目当てはハリー・ポッターの映画ロケ地を見ることだったのだけれども、宿泊客の多くはウィンタースポーツを楽しみに来ていたようだった。

8人ほどが泊まれる女性用ドミトリーに泊まっていたところ、同室の宿泊客のほとんどは朝の早いうちから雪山へ出かけていった。

空っぽになったベッドに、ふと目が止まる。まるっこいペンギンのぬいぐるみが枕のところに寝かせられていた。夕方、スキーから帰ってきたぬいぐるみの持ち主に「あのペンギンかわいいね」と話しかけたところ、「あ、あれはあんまり気にしないで」と言われてしまった。なるほどと納得するとともに、ちょっと反省する。他人に見せたくて置いていたわけではなかったのだ。

だけどそれ以来、どこでも連れて行ける手のひらサイズのぬいぐるみがいるのはいいなと思うようになった。なんだか妙に落ち着かない部屋や、いつまでたっても眠れないベッド、苦手な匂いのする枕カバーなんかに出会ってしまったときも、だいぶ気分がやわらぎそうだ。

風邪気味で一日中寝ている人のベッドの隣に、テディベアが落っこちている光景にも遭遇したことがある。相部屋に具合が悪い人がいると(もちろんコロナ前であっても)、どうしたって部屋の空気はナーバスになる。心配する人、気にしない人、咳に眉をひそめる人、部屋を移るべきだと怒る人ーー。しかしベッドから落ちた哀れなクマが転がっていると、険悪になりがちな雰囲気がいくらか和む。

せっかくなら私も、テディベア大国のイギリスにいるうちに可愛いクマを探そう……と楽しみにしていたのに、コロナの影響で旅は中断。結局理想のテディベアには出会えないまま今に至る。次にイギリスを訪れるときこそきっと、よいクマと出会いたい。

片渕ゆり(ぽんず)

1991年生まれ。大学卒業後、コピーライターとして働いたのち、どうしても長い旅がしたいという思いから退職。2019年9月から旅暮らしをはじめ、TwitterやnoteなどのSNSで旅にまつわる文章や写真を発信している。

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