京都のアメリは鴨川沿いを歩く/ぽんずのみちくさ Vol.43
唐突な書き出しになるけれど、映画はお好きですか?私は映画が好きです。映画館も好きです。
映画館に足を踏み入れた瞬間のポップコーンの香ばしい匂い、すこし暗いロビーの照明、華々しく飾られた新作のポスター。映画に向き合う時間は、生活のめんどうな部分を一切忘れて没頭できる。映像に息を呑み、音楽に涙し、セリフに心を救われる。エンドロールまで見届けて、その後、カフェでコーヒーを飲みながら友人と感想を言い合ったり、考察を読んだりする時間まで含めて、至福の時間。
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だけど最近、自分の映画との向き合い方がなんだかちょっと雑になっているような気がしている。
きっと理由の一端は、日々大量に更新される動画配信サービスで映画を観るようになったことだと思う。
一つでも多くのコンテンツを観ないと「損」な気がして、裂けるチーズばりに細かく裂かれた隙間時間に、せっせとコンテンツを摂取している。まるで、なにかに追われてるみたいに。
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誤解を防ぐために追記しておくと、ネットで映画が楽しめること自体は最高だ。コロナで多くの楽しみが奪われた中で、もしこの世にNetflixやAmazonPrimeがなかったら、生活はもっとずっと息苦しいものになっていた。
会いたくても会えない人と、同じ映画を観て感想をLINEで送りあったり、家族のあいだで「あれ観た?」と共通の話題が生まれたり。別々の場所で、それぞれの家で映画を観られることは大きな救いだった。
サービスが悪いんじゃない。変わったのは自分なんだと思う。
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映画「アメリ」にまつわる、こんな思い出がある。とある友人と大学の構内で出会ったとき、「アメリの曲を聴きながら学校まで歩いてきたら、なんだか映画のつづきみたいだった」と満足そうだった。いいな、と思った。ちょっとだけ、鴨川がセーヌ川に見えそうで。
もう一人の友人は、アメリの影響で、手書きの住所録を買ったと話していた。それも、いいな、と思った。彼女の住所録が今どうなっているのかわからないし、もしかするともう、Excel管理なのかもしれない。でも、アメリを観たあとの彼女が実際に住所録を買ったという事実が、なんだか好きなのだ。映画と生活がつながっている気がして。
ここ最近の私は、好きな作品をゆっくり味わうことを、自分自身に対して禁じていたような気がする。
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好きな映画を何度も繰り返し観たっていい。何時間もかけて感想をイラストにしてもいい。検索したい気持ちをぐっとこらえて、自分の頭で考察を楽しむのもいい。観た映画を口実に、誰かにLINEしてみてもいいかもしれない。
ただ、映画を、その瞬間「だけ」を楽しむ音楽つきの映像として消費することだけは避けようぜ、というのが自分との目下の約束だ。
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私たちの人生にハッピーエンドは約束されてないし、映画の主人公のようには生きられない。パニック映画ですら最後は平穏な日常を取り戻すというのに、現実の世界は長い長いトンネルに入ったまま、いつ出られるのかさえわからない。でも、そういう時期を生きてるからこそ、心を耕してくれるものとの付き合い方についてはちゃんと大事にしていきたいなと思う日々です。
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ぽんず(片渕ゆり)
1991年生まれ。大学卒業後、コピーライターとして働いたのち、どうしても長い旅がしたいという思いから退職。2019年9月から旅暮らしをはじめ、TwitterやnoteなどのSNSで旅にまつわる文章や写真を発信している。