【ぽんずのみちくさ Vol.16】小さくしか歩けない

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【ぽんずのみちくさ Vol.16】小さくしか歩けない

損な性格をしてる気がする。コツコツ派、というと聞こえはいいかもしれないけど、要は大きな変化や飛び抜けた進化ができないから、生まれてこのかたずっと小さな歩幅で歩き続けている。何をするにしても、だ。勉強、仕事、貯金、写真、文章、なんなら「あつまれ どうぶつの森」でさえ。ゲームの中でさえ、一攫千金のチャンスを狙う勇気がなくて、毎日地味に穴を掘ったり魚を釣ったりしながらベル(お金)を貯めている。

映画『アマデウス』を観たのはまだ年端もいかない子どもの頃だったのに、天才モーツァルトに嫉妬する音楽家サリエリの気持ちがわかっちゃう気がして胃がちくちくした。

そんな小心者の私に、「富士山に登る」という一生に一度あるかないかレベルのイベントが発生したのは2年前の夏だった。

Twitterを通じて初めてできた友人、きっちゃんに誘われて、気づけばレンタルグッズの申し込みやらバスの予約やらをしていた。

動きやすい格好で新宿へ向かう。なんだか修学旅行みたいだ。大人になってからというもの、旅の定番は電車か飛行機だったけど、おやつを抱えて乗り込むバスの高揚感はいいものだ。

到着したのは富士山の五合目。‪雲なのか霧なのか、空気が湿っている。

ガイドさんにくっついて、一歩一歩、上へ向かう。とくに自然が大好きというわけではないのに、久しぶりに山を歩くと、なんだか足がしっくりくる。駅の階段ではよく人に酔ってふらついてしまうというのに、ごつごつした岩の上はきちんと歩けている。好みというよりは、相性の問題なんだろうか。

栄養補給という名目を高々と掲げて、休憩を挟むたびにすごい勢いでおやつを食べる。ドーナツにチョコレート。本当はそんなことないんだろうけど、食べたそばからエネルギーになってくれてるような気がした。長い時間歩いたはずなのに、きっちゃんとおやつを食べた記憶が大部分を占めている。

その後も、山小屋のあんぱんを食べ、カレーを食べ、仮眠をとり、さらに上へ向かった。

当たり前だけど、山頂までは一歩ずつしか近づけない。自分の足で歩いた一歩。どんなに遠くても、ひたすら歩けば到達できるという事実に今さらながら驚いてしまう。足、すごい。

一番てっぺんの場所で、超特大線香花火のような朝日を無事に眺めることができた。「こんなにきれいにな朝日は今シーズン初かも」自分が褒められたわけでもないのに、ガイドさんの言葉を聞いて勝手に誇らしい気持ちになる。

翌日は身体中がバッキバキに痛かったし、数日は疲れが抜けなかった。でも、たしかに私はあの山頂にいた。一歩ずつ歩いて、あのてっぺんの場所まで行った。

そりゃあ、人生には時間のリミットもあるし、ビジネスにはライバルもいる。てくてく歩くだけじゃ太刀打ちできないことだってたくさんあるだろう。でも、歩みを止めさえしなければ、案外遠くまで行けたりもするのだ。おやつを忘れずポケットにつめて、今日も小さく歩いている。

ぽんず(片渕ゆり)

1991年生まれ。大学卒業後、コピーライターとして働いたのち、どうしても長い旅がしたいという思いから退職。2019年9月から旅暮らしをはじめ、TwitterやnoteなどのSNSで旅にまつわる文章や写真を発信している。

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