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「Q.2 ポートレートを撮るとき、どんなことを考えて向き合っている?」瀧本幹也|Portrait Q&A 2/45

写真家や俳優、モデルなど41名が答えた、全45問のPortrait Q&A特集。人にカメラを向けるからこそ、迷いはなくしたい。自分の写真をちゃんと好きでいたい。そのためにどうするか?「ポートレートの答え」はここにあります。
今回の回答者は、思考を巡らせ表現という形にする、写真家で撮影監督の瀧本幹也さんです。

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目次

プロフィール

瀧本幹也

写真家/撮影監督 1974年生まれ、愛知県出身。藤井保氏に師事後、1998年より広告写真をはじめ、コマーシャルフィルムなど幅広い分野の撮影を手がける。第一人者として広告写真界を牽引する一方で、自身の作品制作も精力的に行い、写真展や写真集として発表。代表作に『BAUHAUS DESSAU』、『SIGHTSEEING』、『LAND SPACE』、『LOUIS VUITTON FOREST』、『CHAOS』『LUMIÈRE』、『PRIÈRE』がある。他、80本を超える広告作品を掲載したハウツー本『写真前夜』、仕事集『Mikiya Takimoto Works 1998-2023』など。

Q. ポートレートを撮るとき、どんなことを考えて向き合っている?

A. その人の本質を撮ろう、なんて、おこがましいということ。

一人の特別な空間や時間、状況を用意し、 その瞬間を切り取った。

坂本龍一 © 2007 Mikiya Takimoto

At this time… 観察しながら

「僕は被写体との接触があまりない、覗き見るような撮り方をすることが多いです。被写体が一人になる空間と時間を設定して、客観的な視点で撮るという手法。坂本龍一さんを撮ったこの作品は年賀状の広告でした。この時は坂本さんに、年賀状を何十枚もひたすら書いてもらって、それを遠目から撮っています。空間を決めて実際に何か作業をしてもらうことで、その人の癖とかがそのまま滲み出てくる。そのいいところを切り取っていくのです。設定がある時点で演出は入っていますし、ある意味で表層の部分を見ているようなところはありますが、でき得る限りのなかでの、その人らしさや魅力が写る撮影方法かなと思っています」。

役柄になりきったその姿を、視聴者の目線でドキドキしながら撮った。

吉沢亮 © 2021 Mikiya Takimoto

吉沢亮 © 2021 Mikiya Takimoto

At this time… 視聴者の延長で

「大河ドラマ『青天を衝け』の後半ビジュアルで、渋沢栄一役の吉沢亮さんを撮影しました。吉沢さんはまさに“渋沢栄一”としてそこに佇んでいたので、その凛々しく美しい姿をストレートに撮影しました。映画やドラマのビジュアルなど、役柄の設定があるポートレート撮影では、僕は視聴者の延長のような目線で、ドキドキしながら撮っています。とくに映画の撮影などで感じることですが、撮影監督は、一番いい席で一番いいお芝居を見られるという特権を持っている。その人の本質を追うことはむしろ必要がないんですよね。役柄を通してその人を見つつも、鑑賞に近い感覚で撮影する方法です」。

「身近な人より俳優の方々を撮影させていただくことが多いので、撮影の前にその方が出演している映画やこれまでの作品、インタビューなどを見て、少しでもどんな方かを勉強してからお会いするようにしています。しかし実際にお会いしてみないとわからないものです。どんな方なのかを探りながら撮影を進めていきますが、やはり本当の意味でのその人のすべてはわからない。それはそうですよね。この人はこういう人なんだなんて思えるには、何年も一緒に過ごしてみないとわかりようがない。相手だって、わかるはずないって思ってると思います。だから、その人の本質を捉えようみたいなことは、撮影する時にはまず考えてないです。むしろ、その人のことをわかったつもりになって、1枚のポートレートでその人のすべてを表現しようなんて絶対できないし、それはおこがましいことだと思っています」。

A. だから、その先こそが大事で、いつも最適解を探している。

遊牧民たちの暮らしを捉えるのではなく、標本のようにすることで表情から暮らしを想像させた。

MONGOLIAN TRIBE © 1997 Mikiya Takimoto

At this time… 企画に振り切って

「その人のことをわかったかのように撮ることは失礼、という思いが根底にあるので、コンセプトを考えることもあります。この作品は、22歳の頃に1カ月モンゴルを旅したときに撮影したもの。日本人はモンゴル人と遺伝的に近く、その証拠の一つとして、多くの日本人に蒙古斑が見られることが挙げられます。このシリーズは、モンゴルの遊牧民と日本人の顔が文明によってどのような違いを生むのか、撮影当時交わりの少なかった13~14の少数民族を比較しながら、標本のように記録することを意識して撮影したものです。少数民族の顔図鑑をイメージし、撮影対象の方々には、ゲルの入口近くに黒い布を背景にして座ってもらい、すべて自然光で撮りました。よって瞳にはモンゴルの大草原が映っています。完全にコンセプトに振り切ったポートレートとなっています」。

MONGOLIAN TRIBE © 1997 Mikiya Takimoto

MONGOLIAN TRIBE © 1997 Mikiya Takimoto

MONGOLIAN TRIBE © 1997 Mikiya Takimoto

偶然の出会いに身をゆだね、その人のリアルな生活と表情を収めた。

Women of Almaty © 2017 Mikiya Takimoto(大和ハウスOne Sky)

Sophia's Sister © 2017 Mikiya Takimoto(大和ハウスOne Sky)

At this time… ドキュメントで

「上の写真はカザフスタンで、2人の少女の写真はブルガリアで、どちらも演出はしていなくて、ドキュメントで撮影したものです。車を走らせてもらって、適当なところで停めてもらいながら、そこで暮らす人たちのリアルな生活と表情を追いました。少しあいさつをして、相手が構えないうちに撮ってしまう。『じつは日本の広告の撮影で』ということはあとから説明をして許諾を得ました。その方が構えない自然な表情が狙えるからです。こういう場所に行って撮るという自分なりの演出・戦略はあるのですが、この時は完全にドキュメンタリーに振り切るという方法を選択し、撮影を行いました」。

とまどいながら、探りながら——

「それが前提としてあるので、ポートレートの撮影では、観察する目線に徹するのか、間接的に撮るのか、何か企画を持ち込むのか、もしくはドキュメントを撮影するのか…その都度、さまざまにある選択肢から最適解を探るということをしています。そして撮影のときは、少し客観的な距離感をとりながら、探りつつ、探りつつ、少しずつにじり寄るような感じで、この人のここは美しいなって思うようなところを見るようにしていっています。ポートレートって、自然の撮影とも似ています。自然や天気って自分ではなんともできないから、それにゆだねて、逆らわず寄り添っていくことで見せてくれる景色があったりする。毎回緊張もするし、いつもとまどいながら、探りながら撮影しているように思います」。

GENIC vol.73【Portrait Q&A】Q. ポートレートを撮るとき、どんなことを考えて向き合っている?
Edit:Chikako Kawamoto

GENIC vol.73

2025年1月号の特集は「Portrait Q&A」。ポートレートの答えはここにある

人にカメラを向けるからこそ、迷いはなくしたい。自分の写真をちゃんと好きでいたい。そのためにどうするか?「答え」はここにあります。写真家や俳優、モデルなど41名が答えた、全45問のQ&A特集です。

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