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「Q.8 初心者に伝えたい、被写体との距離のはかり方とは?」熊谷直子|Portrait Q&A 8/45

写真家や俳優、モデルなど41名が答えた、全45問のPortrait Q&A特集。人にカメラを向けるからこそ、迷いはなくしたい。自分の写真をちゃんと好きでいたい。そのためにどうするか?「ポートレートの答え」はここにあります。
今回の回答者は、自分の内面を写真で表現する、写真家の熊谷直子さんです。

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目次

プロフィール

熊谷直子

写真家 兵庫県出身、東京都在住。雑誌や広告、舞台などの撮影で幅広く活躍するかたわら、写真集や個展などを通してパーソナルな作品も多数発表。主な写真集に『anemone』(タイフーン・ブックスジャパン)、『月刊 二階堂ふみ』(朝日出版社)、杉咲花『ユートピア』(東京ニュース通信社)、『赤い河』(TISSUE Inc.)、川上なな実写真集『すべて光』(工パブリック)など。今年7月、新作写真集『レテに浮かんで』(TISSUE Inc.)をリリース。

印象に残るポートレート撮影はたくさんあり、その一つひとつが積み重なり糧となっていくもの。私がなかでも覚えているのは、過去とある雑誌の撮影で、コソボ共和国の女優、アルタ・ドブロシさんを撮影したときのことです。「5ページ分の写真を5分で撮ってください」と言われ、頭の中でゴングがカーンと鳴りました。ものすごく集中して、なるべくたくさんのシチュエーションと表情、寄り引きなどのバリエーションを撮影し、終えたときはとても達成感がありました。フィルムで撮影していたので、上がりを見たときにとても興奮したのも覚えています。

Q.8 初心者に伝えたい、被写体との距離のはかり方とは?

ダンサー 笠井瑞丈(2011)

A. まずは自分のなかにブレない指針をしっかり持ちながら、相手をリスペクトし向き合っていく

自分自身が撮りたいポートレートの種類を把握することから

韓国の友人 キム・ナウン(2018)

写真家 服部健太郎(2021)

「私自身は、構えず自然な姿を撮りたいと思っています。その上で、そんな写真を撮るにはどう被写体の方と向き合えばよいかをまずは考えるのですが、考えたところで実際に撮影の場になると、被写体の方との相性も影響してくるものです。でもだからこそ、経験を積んで、自分の中にブレない指針になる、撮りたい像をしっかり持っていくことが大事かなと思っています。私はもともと、商業カメラマンとしてファッションの分野をメインに活動していました。毎日が忙しくも楽しい時間ではあったのですが、ふとあるとき、洋服ではなく、洋服を着ているその人に興味があることに気づきました。そこからポートレートを意識的に撮り始めたのですが、その頃は撮りたいポートレート写真が分からず闇雲に撮っていたように思います。どんなポートレートを撮りたいのか、実践のなかで本当にたくさん考えて、今があると思っています」。

A. そして、怖がらず挑戦してみて、自分の距離感の取り方を知っていく

自分の好きと嫌いを知ることから、ポートレートを掘り下げて経験を重ねてきた

友人と桜(2014)

ミュージシャン GOFISH テライショウタ(2020)

韓国の友人 イ・ラン(2019)

「被写体の方とまだ打ち解けていない段階で、自分のペースでズカズカと相手のパーソナルスペースに入ってしまうと、結果よい写真は撮れない、ということを、何度も経験してきました。会話することも必要ではありますが、会話する時間がないときは相手と正面から向き合って目を合わせてあいさつをする。おそらくそれだけでも心に通じ合えるものを感じられるのでは?と考えています。物理的にも精神的にも、人それぞれの進め方や距離の取り方があると思うので、まずは被写体の方へのリスペクトを持つことが大事。ただここまでは前提としてであって、その先は怖がらず挑戦してみて、自分の距離の取り方を知っていくことこそが、もっとも大事なことだと思っています」。

A. 撮った写真を見返し自分に問う。「このなかに、自分自身は写っているか?」

母(2015) 写真集『赤い河』より

「自分はどんなポートレートが撮りたいのか、自分の距離感の撮り方とはどういったものであるのか、私自身、これまでたくさん考えてきました。その際に、自分の好き・嫌いを知ることから掘り下げていった部分もあります。そのなかで、これはおそらく写真全般に言えることだと思いますが、『自分の撮った写真の中に自分自身は写っている』ということが、とても大切であると考え始めました。きっかけは覚えていませんが、たくさんのさまざまな写真を見て、感じたのだと思います。ポートレートを撮るということは、その人を知りたい、仲良くなりたいというある種のコミュニケーションツールなのかなと思っています。一方で、誰を、何を撮っていても、その作品には自分自身が写っていることは、すごく大切だと考えています」。

「私自身、人を撮影するのが好きで、普段とくに、深くは考えていないようなところもあります。しかし実際は、『果たして私にとってのポートレートとは何を指すのだろうか?』『正面をまっすぐ向いたものや背景がぼやけていて被写体にグッと寄ったものなのだろうか?』など、向き合う度に考えさせられるのがポートレートでもあります。今回、ここ数年で撮影した写真を見返して行き着いた答えは、私にとってポートレートとは、その人と自分が一緒に存在した、その場の“空気”が写っている写真でした。ここに紹介する作品は、どれもそういう写真から選んだものです」。

GENIC vol.73【Portrait Q&A】Q. 初心者に伝えたい、被写体との距離のはかり方とは?
Edit:Megumi Toyosawa

GENIC vol.73

2025年1月号の特集は「Portrait Q&A」。ポートレートの答えはここにある

人にカメラを向けるからこそ、迷いはなくしたい。自分の写真をちゃんと好きでいたい。そのためにどうするか?「答え」はここにあります。写真家や俳優、モデルなど41名が答えた、全45問のQ&A特集です。

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