旅するような暮らしって、結局どんな暮らしだろうか。/ぽんずのみちくさ Vol.51
「暮らすように旅する」というフレーズはよく耳にするし、どういう旅なのか自分なりのイメージがあります。駆け足で観光地をまわるのではなく、一つの宿に長めに滞在してみたり、その土地の料理を自分でつくってみたり、人との交流を楽しんだりするような、ゆったりとした旅。
ではその反対の、「旅するように暮らす」についてはどうでしょう。実を言うと、旅するような暮らしがどんなものなのか、私はあんまりピンと来ていませんでした。
だけど、2021年の1月から北海道上川町へ短期移住してみたことで、「旅するように暮らす」生活がどんなものか、私なりに少し掴めたような気がしています。
![](https://cdn.clipkit.co/tenants/568/item_images/images/000/097/890/large/a4bcdd36-6a4b-48d6-985f-a3c30093464e.jpg?1615774831)
上川町へ来てみて、もっとも私が驚いたのは、その景色の美しさでした。アスファルトも公園も覆い尽くす一面の雪に、軒先できらきらしている氷柱(つらら)は、九州で生まれ育った私にとって想像を超えたものでした。東京の雪はあっという間に茶色くなるけれど、上川町の雪は積もったあともずっと白く、さくさくと踏みしめる感触も気持ちが良い。
上川町には、「移住体験住宅」といって、移住を検討している人が住める施設があります。私も2週間ほど住んでいたのですが、滞在中は備え付けのデスクの位置を動かし、仕事をしながら外の景色が見られるようにしていました。
![](https://cdn.clipkit.co/tenants/568/item_images/images/000/097/879/large/d29e8f62-1a56-44d9-8418-7d6c9437c29f.jpg?1615774817)
静かに雪が降るさまを眺めていると気分が落ち着き、不思議と集中して仕事ができました。晴れた日には白く染まった山や、桃色に広がる空が見えて、つられるように散歩に出たこともありました。
外に出るたび、知らない景色が広がることの嬉しさを感じました。
![](https://cdn.clipkit.co/tenants/568/item_images/images/000/097/885/large/d36bd0ab-8de8-4a85-84b0-e65cbc06d53d.jpg?1615774849)
そんな上川町ですが、地域のお店などで地元の方とお話しすると、「ここは何もないけど」とおっしゃることが多いのです。私も地方で育ったので、「何もない」と感じる気持ちは痛いほどわかります。
流行最先端のお店もカフェもないし、気になる展覧会や好きなミュージカルの公演も来ない。だから、「何もない」という言葉を否定したいわけではありません。ただ、私にとって上川町は、いろんな景色が「ある」町だと感じていたので、そのギャップに驚いたのでした。
![](https://cdn.clipkit.co/tenants/568/item_images/images/000/097/886/large/1f39ed81-20a8-4210-8815-2bd567ececd2.jpg?1615774861)
私が上川町で過ごしていた日々は、観光したりイベントに参加したりする日もあるとはいえ、その多くはいつものように家で仕事をするというもの。そんな日々でも、一日をどう過ごしていたか覚えていたくて、たくさん写真を撮りました。上川町のこと、北海道のこと、アイヌのことーー 知りたいことが次々出てきて、それらにまつわる本や映画に触れたりもしました。
短期移住の期間も残りわずかとなり、上川町での生活について思い返していたとき、頭に浮かんだのは、冒頭で触れた「旅するように暮らす」という言葉でした。
![](https://cdn.clipkit.co/tenants/568/item_images/images/000/097/887/large/56c4155e-7040-4968-9ac8-ac093e5a6c9a.jpg?1615774872)
なぜ、上川町での日々が「旅するような暮らし」だと感じたんだろうーー?。
上川町という場所の魅力のおかげであることは、言うまでもありません。北海道を訪れるのが久しぶりだったがゆえに、見るものすべてが新鮮に感じていた、というのも事実だと思います。
その中で、一番大きな理由は「期間限定だとわかっていたから」なんじゃないかと考えています。
旅する時間が輝くのは、遠からず終わりが来ることを知っているから。だからこそ、目の前の景色がより美しく見えるし、一瞬一瞬を脳裏に焼き付けておきたくなる。
![](https://cdn.clipkit.co/tenants/568/item_images/images/000/097/891/large/d4cae56b-0d4c-44ce-b71f-a2fc327fa968.jpg?1615774885)
突き詰めて言ってしまえば、これは旅に限ったことではありません。ずっと続くように思える日常も、本当は永遠なんかじゃない。
北海道での短期移住が終わったあとは、東京の「日常」に戻る予定です。カフェと美術館があり、雪と山がない街。自分には合わないかもと思っていた東京だけど、東京の暮らしだって、永遠ではない。そう気づいた今、東京の景色が自分の目にどう映るのか、すこし楽しみな気持ちでいます。
![](https://cdn.clipkit.co/tenants/568/item_images/images/000/097/888/small/2798d207-9b8f-4c28-8625-83b4739e593c.jpg?1616479295)
片渕ゆり(ぽんず)
1991年生まれ。大学卒業後、コピーライターとして働いたのち、どうしても長い旅がしたいという思いから退職。2019年9月から旅暮らしをはじめ、TwitterやnoteなどのSNSで旅にまつわる文章や写真を発信している。