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風雨に見舞われる旅/ぽんずのみちくさ Vol.79

片渕ゆり(ぽんず)<連載コラム>毎週火曜日更新
ほんとに大切にしたい経験は
履歴書には書けないようなことばかり
旅をおやすみ中のぽんずが送るコラム

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風雨に見舞われる旅/ぽんずのみちくさ Vol.79

旅先で晴れてほしいと願う気持ちは多くの人が当たり前のように抱くものだと思う。だけど祈ったところで天気は思うようには操れず、どんなに楽しみにしていた旅であろうと、しばしば悪天候に見舞われることになる。

キューバに行こうとしたときは、運悪く、ハリケーン襲来のタイミングと重なってしまった。乗り継ぎのカナダまでは着いたものの、肝心のキューバ行きの飛行機はすべて欠航。キューバでの滞在時間がじりじり削られていくのを感じながら、カナダのホテルでじっとするほかなかった。

幸い翌日にはハバナに入ることが出来たものの、海沿いの有名なマレコン通りは封鎖され、ビーチも様変わりしていた。地元の人々は「ハリケーンのせいで今日の海は汚い」とため息をついていたけれど、それでも私に言わせればカリブ海はじゅうぶんに透き通っていた。ハリケーン後でこれなら、普段はいったいどれだけ美しいのか。また来て確かめよう。そう思い続けているものの、まだ実現できないでいる。

ほかにも旅先で雨や風に泣かされたことは何度もあるけれど、忘れられないのは、地元の友人と二人で台湾を訪れたときのこと。「千と千尋の神隠し」の舞台に似ていることで有名な九分の街を訪れたときから、不穏な予兆はあった。

憧れの地にたどり着いたと思った途端、土砂降りに見舞われた。山の上にある街なので坂道が続くし、足元の石段は雨に濡れ、気を抜けばつるりと滑りそうだ。外の景色を楽しむのはそうそうに諦め、熱々の小籠包を楽しむことに切り替えた。

その夜。雨は止むどころか、ますます勢いづいてゆく。頼りないガラスが揺れ、6畳ほどのコンパクトな部屋にびりびりと雷鳴が響く。怖い怖いと言いながら、二人で縮こまってその夜を過ごした。

驚いたのは翌朝だ。窓を開けたら、景色が一変しているではないか。昨晩は何もなかったところに、木材やらなんやらが散らばっている。外に出ると、街路樹がばっさばっさと倒れている。なんと、外壁ごと崩れている建物もある。

このときの強風を受けて歪んでしまった郵便ポストもあるそうで、ぴょこんとお辞儀しているようなシルエットが「可愛い」と話題になり、今では観光名所にまでなっているらしい。

「あのときは怖かったね」
久しぶりに電話しながら話したら、友人に咎められた。

「私は死ぬかと思ってたけど、あなたはすやすや寝てたからね?」
記憶の中より、実際の自分のほうが図太かった。

旅の出発前は、必ず晴れを願う。だけど、折にふれて何度も思い出したり、のちに笑い話になったりするのは、雨風にもみくちゃにされた旅だったりする。ままならない旅は、なぜだかいつも愛おしいのだ。

片渕ゆり(ぽんず)

1991年生まれ。大学卒業後、コピーライターとして働いたのち、どうしても長い旅がしたいという思いから退職。2019年9月から旅暮らしをはじめ、TwitterやnoteなどのSNSで旅にまつわる文章や写真を発信している。

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