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写真家 蓮井幹生の個展「十七の海の肖像」が、表参道で開催。日本各地の原発を訪れ撮影した海景作品、初公開

写真家 蓮井幹生の個展「十七の海の肖像」が、東京 表参道のYUGEN Galleryにて、2025年6月7日(土)~6月23日(月)に開催。2023年末から2025年にかけて、日本国内の17地域の原子力発電所の前に広がる海の景色を撮影。建設中の青森県大間原発を除く、日本国内の原発をすべて訪れ、制作された出品作は、本邦初公開。フィルム写真から、人や構造物を画像処理で取り除き、目に見えない"現代のリスク"と向き合う挑戦的な作品群です。

  • 開催期間:2025.6.7 ~ 2025.6.23
目次

プロフィール

蓮井幹生

写真家 1955年東京都出身。アマチュア写真家の父親の影響で幼少の頃から写真を始める。明治学院大学社会学部社会学科を中退後、アートディレクター・守谷猛に師事。アートディレクターとして広告やレコードジャケットを多く手がける。30歳の頃より写真を独学し、1988年の個展開催をきっかけに写真家となる。新潮社の雑誌『03』はじめ著名人のポートレイト作品で注目を集め、ファッション、ドキュメンタリーと幅広い分野の撮影を手がける。2000年頃からはムービー撮影も行い、PVやCMの作品多数。受賞歴は「Spikes Asia」Silver Spike(2017年)、「APAアワード2019」美しい日本賞、「第67回日経広告賞」最優秀賞(以上、2018年)など。作品はフランス国立図書館、東京工芸大学写大ギャラリーに収蔵されている。

ステートメント

北海道古宇郡泊村

「その海は私たちに何を語ろうとしているのだろうか。」

太古の昔、人は火を支配した。そして道具を手にして文明を生み出すスタート地点に立った。以来、私たちはエネルギーを生み、それをコントロールしながら凡ゆる分野において利便性と合理性を追求して来た。そして未来永劫人はその歩みを止めることはないであろう。

私にとってのライフワークである Peace Land は、6:17という画角のパノラマカメラで様々な地域の水平線をただただそのラインを画角の中央において、カラーフィルムでありのままに撮影したものである。その地域とは敢えて特別な場所ではなくたまたま出会った海だが、カメラを立ててじっと見つめていると、どこであっても優劣つけ難く美しい。押し寄せる波や、風に揺れる水面、反射する光。それらは刻々と変化し、一瞬前よりも一層美しい表情を絶えず見せつけてくる。しかし、そこには目には見えない様々な汚染やそのリスクも垣間見える。私たちが生活する上で無神経に捨てたペットボトルなどのゴミはマイクロプラスティックと化して海中に漂い、また洗剤などの化学物質はその海を根本的に汚染する。それらは海の生物にも多大な害を与え、食物連鎖によって何れ私たちの身体をも蝕むことになる。しかしながら、私はそれでもその海を美しいと感じて写真にする。そしてそこに一瞬の平和さえ感じている。だが未来においては、いずれそれも「幻想の風景」になってしまうのではないか。そんな想いで撮影している作品が Peace Land である。

今回展示する17点の海景は、パノラマでは無いものの基本的にはこの Peace Land の流れから生まれた作品だ。だが、これらを撮影した場所はたまたまのそれではない。そこは原子力発電所がある海だ。現在、この国には稼働していないものも含め50基以上の原子力発電プラントがあるが、それらはほぼこの17地域の海に面している。

2011年、東北を巨大な地震と津波が襲ったが、その時に電源喪失という致命的な被害のために冷却機能を喪失して核燃料が溶解し炉を突き抜け、そして水素爆発を起こし、結果大量の放射性物質が放出されてしまったことはまだ記憶に新しい。そしてその後も全くその事態の復旧は一向に進まず、露出した核燃料を地下水で冷却し続けているわけだが、その増え続ける汚染された地下水から有害な放射性物質の一部を除去し、現在は海に放出している。だがその将来における安全性に関しては誰にも判ってはいない。

一昨年から私はそれら17の地域の海景を撮り始めた。以前 Still Crazy という写真集を撮られている広川泰士氏は、なぜ原発は特に美しい海の前にあるのだろうとそのトークイベントで語られていたと記憶するが、全くその通りで、どの原発も大変美しい海に面している。それはまるで原発の安全性をあたかも誇張するかの如く。けれども、2011年の東日本大震災の大津波のような災害で事故に至れば、取り返しのつかない大気汚染及び海洋汚染に繋がるリスクは避け難い。

私たちの生活にとって最も大切な資源である電力、その需要は私たちの生活の利便性の向上や、AIなどの普及によってますます高まる一方だが、果たしてそれらの電力需要の増加を原発に頼るという選択肢はやむを得ないのだろうか。

私は今回、フィルムカメラで撮影した17点の海景をデジタルスキャニングし、敢えて船舶やテトラポッドなどの人工物を消し去った。その理由は「もしもここに私たち人間がいなかったとしたら、流れ行く時間と光と共に淡々と存在する静粛の海景ではないだろうか」と考えたからだ。
写真とはありのままの全てを受け入れてこそのものであると私は絶えず考えているが、今回の作品はそのことによって「真の写真」とは言えないのかもしれない。私は写真家として今も葛藤している。

私たち人間も、結局は自然界の一部であり自然物である。故にこの地球という星の中でルールを守り、そのバランスと調和をできる限り壊さないようにする責任がある。だが電力問題だけではなく、私たちはあらゆる分野においてもそれを保つ最後の一線を既に超えてしまっているように思う。どのようにしたら私たちは次世代に安全で美しい海や自然を残して行けるのだろうか。

自然は母のように包容力があり、そしてどこまでも寡黙だ。しかし私たちはそれに甘えて安心しきってはならない、と海は語っているように思える。
人と海、空、空気、他の生物。全ては自然の中に共存しなくてはならないのだから。
これらの海景が私たち本来の姿を投影している肖像写真のように感じていただけたなら幸いである。

── 蓮井幹生

展示内容の一部をご紹介

鹿児島県薩摩川内市

国内外で高い評価を受けてきた写真家・蓮井幹生(はすい・みきお)が、YUGEN Galleryで最新作を発表します。

今回の個展では、原発やエネルギー問題、地域社会といった現代のテーマを背景に、“海だけ”を写した17点の作品を初公開。人の姿も建物もすべて消し去った静かな風景の中に、見えないものが確かに存在していることを感じさせます。

フィルム写真に丁寧な画像処理を加え、「存在の痕跡」を取り除いたこれらの海景は、写真表現としてもとてもユニークで挑戦的。アートを通じて、「これからの私たち」に問いかけてくる展覧会となっています。会期中には、蓮井さん本人によるギャラリートークも全5回開催予定。制作の裏側やテーマについて直接話を聞ける貴重な機会となっています。さらに展示期間中に来場者限定で本展の内容がつまった数量限定オリジナル小冊子をプレゼント。

写真やアートが好きな方はもちろん、社会のことをじっくり考えてみたいという方にもおすすめの展覧会です。
みなさまのご来場を心よりお待ちしております。

── YUGEN Gallery

青森県下北郡東通村

蓮井幹生 個展「十七の海の肖像」情報

開催日時

2025年6月7日(土)〜6月23日(月)
平日 13:00~19:00
初日 土日祝日 13:00~20:00
※最終日のみ17:00終了
※入場は閉場30分前まで
※会期中無休

作家在廊日

6月8日(日)、14日(土)、15日(日)、21日(土)、22日(日)
※変更となる場合があります

ギャラリートーク開催日

6月8日(日)14:00〜15:00
6月14日(土)17:00〜18:00
6月15日(日)14:00〜15:00
6月21日(土)17:00〜18:00
6月22日(日)14:00〜15:00

蓮井幹生 「十七の海の肖像」 ギャラリートーク 予約フォーム

入場料

無料

会場

YUGEN Gallery

  • 〒〒107-0062 東京都港区南青山3-1-31 KD南青山ビル4F
  • Google Map

行き方・アクセス

<電車>
東京メトロ銀座線「外苑前駅」から徒歩で約6分
東京メトロ銀座線・半蔵門線・千代田線「表参道駅」から徒歩で約8分

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