清里フォトアートミュージアム 館長からのメッセージ
ヤング・ポートフォリオ(YP)とは、「生命(いのち)あるものへの共感」「永遠のプラチナ・プリント」と並ぶ、清里フォトアートミュージアムの基本理念のひとつです。
YPは、ランクを定めるコンテストではありません。世界の35歳以下の写真家による、独創的で表現意欲の高い作品を美術館のコレクションとして購入することによって、彼らを支援し、勇気を与えたいと考えるものです。
わたしたちは、未だ評価の定まらない青年たちの作品にこそ、時代を切り拓く力が秘められていると考えています。写真表現に情熱を燃やす青年たちの創造性に富んだユニークな作品を後世にのこすため、これからも作品を募集してまいります。
写真に対する青年の情熱と勇気に期待しています。
清里フォトアートミュージアム
館長 細江英公
2023年度ヤング・ポートフォリオ
モノクロームの作品が目立った2023年
2023年度は特にモノクロ作品の多さが特徴的でした。この状況について野口選考委員は「作家たちは、誰でも気軽に撮れる環境の中で戦っている。携帯で撮れる写真とは違うもの、自分ならではの作品を作るなかで、モノクロを選択しているのでは」とその印象を語りました。
“生まれた時からデジタル“の世代が、作品の世界観を際立たせるため、手間がかかる技法であってもモノクロ表現に新鮮さとその魅力を感じているのかもしれません。
ウクライナの写真
オレクシー・チョイストーツィン(ウクライナ 2000)は、ウクライナ・ハルキウ出身で、2022年のヤング・ポートフォリオでも作品が収蔵となった作家です。ロシアの侵攻が始まり、空爆されたハルキウを2022年2月24日に離れ、応募作品は周辺国に住む友人たちの手を経て日本へ送られました。現在は再びハルキウに戻り制作活動を続けています。
作品シリーズ名の《ヴェルテップ》とは、ウクライナ特有の移動式人形劇場の名称で、その語源はキリストが誕生したベツレヘムの洞窟を意味します。作品は、ウクライナ東部前線地区で宗教的、民族的公演を続けるアーティストたちと共に旅をしながら撮影したシリーズです。
ロジオン・プロホレンコ(ウクライナ 1996)は、ウクライナ・ドネツク州に生まれ、美術や映像を学んだ後、主にアナログ技法を用いる写真家となりました。
現在は、ドンバス地域の前線近くで戦争写真家として活動しています。
長引く侵攻のなかで、写真家たちの眼差しは、これまで以上に深く人間の存在に関わる記憶、歴史、個人、社会へと向けられています。
そして、今回は、夢無子が昨年日本からウクライナを訪れ、制作した〈ウクライナの窓〉シリーズも購入となりました。かつて日常生活があった部屋の窓の内側と外側、破壊された光景と鮮やかな色が印象的な作品です。
2023年度ヤング・ポートフォリオ作品購入作家
1 相原舜(日本 1983)
2 クリスチャン・バビスタ(フィリピン 1995)★
3 ローリー・ブレア(イギリス/ドイツ/ニュージーランド 1990)
4 チョ・ガンヒョン(韓国 1996)
5 オレクシー・チョイストーツィン(ウクライナ 2000)★
6 フランシスコ・ゴンサレス・カマチョ(フィンランド 1990)
7 井上麻由美(日本 1988)★
8 加藤清志(日本 1988)
9 キャサリン・コールマン(アメリカ 1995)
10 クガハルミ(日本 1995)
11 MA YUE(中国 1993)
12 芽尾キネ(日本 1992)
13 夢無子(日本 1988)
14 中野翔大朗(日本 1989)★
15 野々山裕樹(日本 1991)★
16 ロジオン・プロホレンコ(ウクライナ 1996)
17 ロイド・ラモス(イギリス 1991)
18 阪根浩平(日本 1988)
19 ホーコン・サン(ノルウェー 1990)
20 薗部一騎(日本 1993)
21 卯月梨沙(日本 1988)★
22 ゴ エンキン(中国 1995)
★印:過去のヤング・ポートフォリオでも作品を収蔵した作家
審査委員
今道子
写真家 1955年、神奈川県生まれ。創形美術学校版画科卒業後、東京写真専門学校にて写真を学ぶ。市場に並ぶ魚や野菜などの食材、靴や帽子といった日常的なモノを組み合わせたオブジェを創り、自然光で撮影してプリントする独自の手法を用いる。その精緻な構成と詩的喚起力に富んだモノクロームの世界は初の写真集「EAT」(1987)以来一貫しており、第16 回木村伊兵衛写真賞受賞をはじめ、国内外で高い評価を得ている。2022 年神奈川県立近代美術館鎌倉別館にて「フィリアー今道子」展が開催された。
<コメント>
「選ばれた作品を見ると、本人の力強さみたいなものが見えている作品が、私の中に残ったんだなという印象です。今回、私自身の作品を調べてみたのですが、代表作が30 代前半の作品で驚きました。あの頃は今と違って、取り憑かれたように写真をやっていたなと思い出したのですが、誰でもそんな時期があると思うので、その時を大切にしてほしいと思います。」
野口里佳
写真家 1970、埼玉県生まれ。日本大学藝術学部写真学科大学院在学中に応募した「1995 年度(第一回)ヤング・ポートフォリオ」にて〈座標感覚〉(1992)が購入となる。以後、欧米、アジアでも制作・発表を重ね、現代美術の国際展にも多数参加している。東京国立近代美術館、グッゲンハイム美術館など内外のパブリック・コレクション多数。那覇市在住。2022 年東京都写真美術館にて「野口里佳 不思議な力」展が開催された。
<コメント>
「審査では完成度の高い作品だけではなく、すごくエネルギーを感じるものも選んだつもりです。同時に、その方が作品をつくり続けていった時に『ああ、あそこにスタート地点があったんだ』と思える、いつ振り返ってもそこに原点を感じる作品を選びたいとも思いました。」
瀬戸正人
写真家 1953、タイ国ウドーンタニ市生まれ。後に父の故郷、福島県に移り住む。東京写真専門学校(現・東京ビジュアルアーツ)在学中に森山大道氏に大きな影響を受ける。深瀬昌久氏の助手を務めたのち独立。1987 年、自らの発表の場としてギャラリー「PLACE M」を開設し、現在も運営中。第21 回木村伊兵衛写真賞受賞。2021 年4 月清里フォトアートミュージアム副館長に就任。
細江英公
写真家 1933生まれ。「薔薇刑」(1963) や「鎌鼬」(1968)など、特異な被写体との関係性から紡ぎ出された物語性の高い作品により戦後写真の転換期における中心的な存在となる。2003 年、英国王立写真協会より創立150 周年記念特別勲章を受章したほか、2010 年、文化功労者。2017 年、写真家として初めて生前に旭日重光章を受章した。
1995 年より清里フォトアートミュージアム初代館長。
写真展「2023年度ヤング・ポートフォリオ」展 情報
開催日時
2023年10月14日(土)~12月3日(日)
2024年3月16日(土)~5月26日(日)
10:00~17:00※入館は16:30まで
休館日:火曜
入館料
一般 800円
本展に限り35歳以下無料
会場
清里フォトアートミュージアム
〒407-0301 山梨県北杜市高根町清里3545-1222
行き方・アクセス
<電車>JR中央本線「小淵沢駅」にて小海線乗り換え「清里駅」から車で約10分
<車>中央自動車道「須玉I.C.」または「長坂I.C.」から車で約20分
- 【展覧会のお問い合わせ先】
- 清里フォトアートミュージアム
- www.kmopa.com
- 【本記事についてのお問い合わせ先】
- ミツバチワークス株式会社
- genic-web.com