日常の中の瞑想/龍崎翔子のクリップボード Vol.41

龍崎翔子<連載コラム>第2木曜日更新
HOTEL SHE, OSAKA、
HOTEL SHE, KYOTOなど
25歳にして5つのホテルを経営する
ホテルプロデューサー龍崎翔子が
ホテルの構想へ着地するまでを公開!

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日常の中の瞑想/龍崎翔子のクリップボード Vol.41

なぜこんなにサウナが流行っているの?という問いに対する私の唯一の解は、『脳汁が出るから』だと思う。そして脳汁が出るのは決してサウナ室に入っている時ではなく、水風呂に飛び込み膝を抱えて天井を見上げる時だ。
逃げ出したいくらいの冷水が首筋やうなじに染み渡って、吐く息が透き通って、耳の周りの血流がどくどくする。目の焦点はだんだん合わなくなり、天井のタイルが二重にぼやけて、頭全体がギャンギャンと脈を打つ。水風呂に浮かんでいる時間は5分もない、多分2~3分ほどだと思うけれど、その間だけ私は精神世界の旅に出る。

アメリカに住んでいた頃、ニューヨークのセントラルパークを家族で散歩していると、芝生で胡座をかいて目を瞑っているアジア系の女性がいた。「あの人は何をしているの?」と母親に聴くと母は「気が散っちゃうから大きな声を出しちゃダメ。瞑想しているんだから」と答えた。「めいそう」ってなんだと思った。それが私と瞑想の出会いだった。
私の生活は、ほとんどの時間がインプットかアウトプットで占められている。日々のmtg、slackやメールのやり取り、空き時間のTwitter、食事のお供のYouTube、電車の中での読書、寝る前のNetflix。Google Homeで音楽をかけながらYouTubeでラジオを聴きながら本を読む、なんて日すらある。私の目と口(そして指)は常にせわしなく動いていて、絶え間なく情報を処理し続けている。そして活発化した脳の動きはとどまるところを知らず、ふとした瞬間に生まれた余白の時間はあらゆる思考と雑念、そして反芻された思い出が一斉に口を開いて喋り出す。
少し前まで、夜は眠れなかった。電気を消しても脳は休まることを知らず、頭の中では誰かと会議を続けており、15年前くらいの記憶が急に蘇ってきたり、断片的な言葉が浮かんできたりして、時に暗い気持ちに包まれながら夜を明かしていた。

去年くらいから、仕事を早く切り上げて、寝る前にラジオを聴くようになった。芸人が軽妙に明るい、そしてちょっとバカバカしい話をしていて、それを絶妙に聞き取りづらい音量で枕元で流し続けているといつの間にか眠れるようになっていた。新たな情報を入れることで脳内に浮かぶ情報を追い出して無にする、というのはちょっと逆説的ではあるんだけど、とにかくそうして私は精神の安寧を得た。10年以上ぶりに、日付が変わる前には眠りに落ちる生活が習慣になった。
「めいそう」ってなんだ、という気持ちは今でも変わらずにある。調べても、らしきことを実践しても、正直まだよくわからない。でも生活のふとした瞬間に、これも瞑想なんじゃないかと気づかされることがある。寝る前のラジオ。サウナの後の水風呂。鴨川の波紋を眺めている時。飼っているカエルと見つめあっている時。せわしない日々の中で立ち止まる時間、何かを脳内に入れるでも、生み出すでも、考えにふけるでもなく、ただ刹那的な今を生きている瞬間。
そんな瞬間を、宿泊空間の中で再現したいと思っている。

龍崎翔子

2015年、大学1年生の頃に母とL&G GLOBAL BUSINESS, Inc.を立ち上げる。「ソーシャルホテル」をコンセプトに、北海道・富良野に『petit-hotel #MELON』をはじめとし、大阪・弁天町に『HOTEL SHE, OSAKA』、北海道・層雲峡で『HOTEL KUMOI』など、全国で計5軒をプロデュース。京都・九条にある『HOTEL SHE, KYOTO』はコンセプトを一新し、2019年3月21日にリニューアルオープン。

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