いかに自宅で心地よく過ごすか/市川渚の“偏愛道” Vol.10
これまでなんとなくそこにあった“普通”がほろほろと崩れていく、身の回りのありとあらゆることが不透明で不確実な昨今。1人の人間として何か行動をしなきゃとも思うけれど、無論、無力さを感じる部分のほうが、正直なところ大きい。
この連載の始めの方で、私は自分がなぜ“偏愛道”を歩んでいるのか、その理由を「心地よさ––自分との“調和”とも言える––に対する執念が人一倍強く、それが妥協を許さない偏愛的価値観へと繋がっているのかも」と書いた。
こんなときだからこそ、意識的に頑張る必要はない、と私は思う。誰もが、普通ではない日常を送る中で、無意識に頑張って毎日を送っているんだから。
だから私は今日も頑張らずに、自分の心地よさを追求すべく、生きている。
まずは働く環境だ。これまでも週に1日は打ち合わせを入れずに自宅に篭って作業に集中する日を可能な限りつくっていたし、昨年末にワーキングデスク周りを整理して、働く環境としてはかなり快適な状況ではあった。が、数週間前から夫もリモートワークになると、状況は変わる。ワーキングスペースは基本的に夫に譲り、私はソファーのテーブルやキッチンのカウンターなどを移動しながら仕事をしていたのだけれど、身体に悪影響が出てくる上に、集中もしづらい。なので、ドンとワーキングデスクをひとつ増やす選択をした。
リビングの壁面が埋まってしまい、多少、窮屈な感じは否めないけれど、今は非常事態だ。そこは我慢することにした(普段の私であれば絶対しない選択だと思う)。高さ調整が可能でスタンディングデスクとしても使用できるデスクに、真っ白なものを見つけられたのもラッキーであった。遠隔ミーティングで使う機会の増えたヘッドセットをぶら下げておけるフックもテーブルの下に付けてみた。夫はディスプレイを会社から持ち帰ってきて、2人並んで仕事ができる取り急ぎの環境が完成し、お互い快適に過ごせるように。
最近はラップトップを使っている人も多いと思うけれど、ラップトップはディスプレイの位置が調整できないので、長時間頭が下に向いた無理な状態になりがち。スタンドや箱などの上にPCを置いて高さを調整したり、ディスプレイを繋げて目線をまっすぐ保てるようにしたりすると、だいぶ身体の負担も軽くなる。
デスクが2台になったので、ワーキングチェアもひとつ増やしたかったけれど、良い椅子は高価だし、取り急ぎ、バランスボールを椅子替わりにしている。下手な椅子に長時間座るよりも疲れづらいのでおすすめ。私は元祖バランスボール、ギムニクが販売している透明な「オプティボール」を選んだ。カラーのものより存在感が良い意味で薄く、部屋に転がしておいてもさほど気にならない。
仕事に集中できない!という人には、ノイズキャンセリング機能のついたイヤホンやヘッドフォンがおすすめ。夫が隣で数時間遠隔ミーティングをしている横で、私は集中して作業をしたい、なんてこともよくあるのだけれど、ノイズキャンセリングをオンにして音楽をかけてしまえば完全に1人の世界。集中しすぎて気づいたら夜になっている、なんてことがあるのが玉に瑕。
一方、リビングをオフィス仕様に振り切ったところ、どうも殺伐とした雰囲気になってしまった感じがするので、意識的に花をたくさん飾るようにしている。お花がそこにあるだけで、部屋の雰囲気がぱっと明るくなる。お花屋さんも最近は宅配対応してくれるところが増えているのでありがたい。
そして、仕事をしていてちょっと口が寂しくなったとき、私は飲み物を飲むようにしているのだけれど、「〇〇が飲みたいな」と思ったら、すぐに飲めるように、色々な飲み物を取り揃えている。まずはコーヒー。豆から挽くと断然美味しいので、ぜひ豆を自分で挽いて、飲んでみて欲しい。豆を挽くのって面倒なイメージがあったのだけれど、ハンドルをぐるぐる回して、ゴリゴリと豆が挽かれていく音を聴いていると無になれる。私にとっては、すっかり毎朝の儀式のような時間になっている。
立派なグラインダーを揃えなくても、ポーレックスの小さいグラインダーがあれば夫婦2人なら十分まかなえる。お茶パックに挽いた豆を入れて、水を入れた適当なボトルに浮かべて、冷蔵庫で一晩置いておけば、美味しいコールドブリューコーヒーが出来るので、これもおすすめ。淹れかたによって味がガラリと変わるのも、面白い。
お茶類もハーブティから、煎茶、台湾茶まで、気分で選べるように色々とストックしてある。これまではなかなか減らなくて賞味期限を切らしてしまうこともよくあったのだけれど、家にずっと居ると驚異的なスピードで消費されていく(笑)。
甘いものをつまむ代わりに甘い飲み物を飲むことも。国産のレモンをスライスして、消毒した密閉瓶に砂糖と蜂蜜を詰めて冷蔵庫で放置しておくだけで、美味しいレモネードの素ができる。寒い日はお湯で割って、暖かい日は氷を浮かべて炭酸水を注ぐ。お家でちょっとしたカフェ気分が味わえる。これも常に冷蔵庫にストック。
絶対切らせないのが炭酸水。上に書いたように、アイスレモネードを作るときにも使えるし、ちょっとお腹すいたなあなんてときに炭酸水を飲めば少しお腹が膨らむので、お菓子をつまんだりして無駄なカロリーを摂取せずに済む。
一人暮らしであれば他の人の目もないし、家に居れば好きな時間に飲むことができてしまうので、Work From Homeが推奨されるようになってから、お酒の摂取量が増えてきてしまったという人もいるかもしれない。私もそうなりそうで少し怖かったのだけれど、そんな時も炭酸水が活躍。お酒と炭酸水を交互に飲むと満足感が得られるので、自制しなくても飲みすぎを防いでくれる。
こだわったものに囲まれて、自分の機嫌をとりながら、今、自分がやれること、やりたいことを粛々と。そんな毎日を過ごしている。
市川渚
1984年生まれ。N&Co.代表、THE GUILD所属。
ファッションとテクノロジーに精通したクリエイティブ・コンサルタントとして国内外のブランド、プロジェクトに関わっている。自身でのクリエイティブ制作や情報発信にも力を入れており、コラムニスト、フォトグラファーやモデルとしての一面も合わせ持つ。