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廃墟になる島/龍崎翔子のクリップボード Vol.48

龍崎翔子<連載コラム>第2木曜日更新
HOTEL SHE, OSAKA、
HOTEL SHE, KYOTOなど
25歳にして5つのホテルを経営する
ホテルプロデューサー龍崎翔子が
ホテルの構想へ着地するまでを公開!

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廃墟になる島/龍崎翔子のクリップボード Vol.48

先日、出張でとある街にお邪魔した。そこはかつて観光客で賑わい栄えていたが、時代の流れとともに取り残され、今は少しずつ人が減り、店が減り、大きな海をあてどなく漂っているような街だった。

昔は旅館だったという建物の前を通りかかった時、「いつか龍崎さんたちにこの廃墟をつかって宿をやってほしいですね」と言われた。かつて旅館だった姿は見る影もなく、窓ガラスは割れ、天井は落ちて、大浴場らしきところでは植物がタイルを突き破って青々と茂っているのが見えた。廃墟を宿にする。それが冗談なのは分かっていたけど、私たちが北海道の山奥で営んでいる温泉旅館のことが脳裏に浮かんだ。

そこもまた、時代に取り残された温泉街で、いつの間にか客足が途絶え、ボロボロの建物だけが残った宿だった。実際、近所には幽霊が出るという噂の廃墟化したホテルだっていくつもあった。そんな土地に、無我夢中な若者が何人も乗り込んで、大金を投じて傷んだ設備を修繕し、内装を変え、若い時間を投資して宿を営んだ。それは美化されてきらめくような記憶でもあり、現在進行形で続くほろ苦い記憶でもあった。色々な事情が複合的に絡み合ってはいるものの、結果として今そこは、休業という形で、客もスタッフもいないまま極寒の冬を迎えようとしているのだから。

私たちが育ててきた宿もやがて、ガラスというガラスが割れて、大浴場から白樺が生えて、鹿の寝床になって、自然の一部に還ろうとするのだろうか。廃墟を宿にして、それがまた廃墟になる。私たちは時間と金を投下して廃墟になる運命の建物を延命しようとしているだけなんじゃないか。そう思うと、まるで自分が賽の河原で必死に石を積み上げては鬼に蹴り飛ばされているように感じられてきて、無性に腹立たしくなった。
日本の人口は減り続ける。若者は都会に集まり続ける。今、まだなんとか活気のある街も、味わい深い店も、昔ながらの工芸品も、もう30年もしたらほとんどなくなるだろう。日本はやがて廃墟になる。そんな大きな流れの中で自分に何ができるかは正直まだ分からない。

龍崎翔子

龍崎翔子/L&G GLOBAL BUSINESS, Inc.代表、CHILLNN, Inc.代表、ホテルプロデューサー
1996年生まれ。2015年にL&G GLOBAL BUSINESS, Inc.を設立後、2016年に「HOTEL SHE, KYOTO」、2017年に「HOTEL SHE, OSAKA」を開業。
2020年にはホテル予約システムのための新会社CHILLNN, Inc.、観光事業者や自治体のためのコンサルティングファーム「水星」を本格始動。
また、2020年9月に一般社団法人Intellectual Inovationsと共同で、次世代観光人材育成のためのtourism academy "SOMEWHERE"を設立し、オンライン講義を開始。2021年に「香林居」開業。

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