目次
Les ZoomsとSalon de la Photoについて
CP+は、フランスのフォトコンテスト「LES ZOOMS (主催 Salon de la Photo)」 に賛同し、日本の写真家の世界進出を応援するため、2015年からZOOMS JAPANを開催しています。「Les Zooms」は、半世紀の歴史を持つフランスの写真映像機器ショー「Salon de la Photo」が、新たな才能を発掘するために毎年⾏っているフォトコンテストです。各受賞作品は「Salon de la Photo」の会場で展⽰され、フランス写真界の注⽬を集めています。
CP+は、「Salon de la Photo」と協同して、「Les Zooms」の受賞作品をCP+会場で展⽰し、⽇仏両国の受賞者の交流を図るなど⽇仏写真⽂化交流の促進に努めています。
ZOOMS JAPAN 2026 ショートリスト選出作品とステートメントをご紹介
明森弘和
テーマ:Still life
明森弘和
時間とは情報の連続である。 写真は見えない変化の層を映し出し、花の移ろいを等価な情報として記録する。無意識の中にある痕跡をとらえる視線には、一つの美意識が交差する。失われてゆくものへの繊細な感受性であり、積み重なる時間の奥に潜む情緒でもある。あらゆる情報を等しく受け止めながら、美を視覚化していく。写真とは、ただ記録するだけではなく、時間の層に宿る美を静かに映し出す行為である。花を見つめる眼差しの中に、時間の蓄積と変化が折り重なっていく。静止と運動、生と死、記録と想像がひとつの画面の中で交わり、固定された形ではなく、流れそのものが像を結ぶ。花の肖像のように、存在の痕跡と移ろいの過程が重なり合い、静けさの中にかすかな呼吸が立ち上がる。重ねるように、古典絵画の構図や光の感覚を取り込み、かつて描かれた静物の時間を、現代の写真として再び立ち上げている。画家が異なる季節の花を一枚に描いたように、複数の時間を重ね合わせ、「描かれる時間」を視覚化していく。過去の美術史に通じるまなざしを通して、絵画と写真のあわいに漂う美の在り方を問いかけている。
奥西優子
テーマ:Unspoken Coexistence —島に溶け合う気配
奥西優子
私の作品シリーズは、沖縄・アメリカ・日本を象徴する日用品やモチーフを一つの画面に配置し、それらが同じ空間に存在する関係性を観察する静物写真です。対象物を特定の用途を持つ道具としてではなく、色や質感、形が持つ固有の存在として捉え、配置や光が生み出す緊張や調和を見つめています。私は京都で生まれ育ち、やがて沖縄へ移住し20年近く沖縄で暮らしてきました。その中で、沖縄が抱える歴史、日本文化の基層、そしてアメリカ統治の痕跡が日常の中に複層的に存在していることを、生活者として肌で感じてきました。日々の暮らしの中で自然に混ざり合う文化や価値観の重なりを、自分なりのまなざしで捉えたいと思ったことが、このシリーズの出発点です。制作を続ける中で、この写真が、私が京都で親しんだ枯山水に近い構造を持つことに気づきました。枯山水は、限られた空間に象徴的な配置を行い、大きな世界観を内包させる表現です。私の静物写真も、対象物の配置によって文化的・象徴的な意味が静かに立ち上がる点で、共通する方法を持っています。例えば琉球ガラスの皿、折り鶴、スパムを組み合わせた一枚では、沖縄の生活に深く根づいたスパムを琉球ガラスの皿に置くことで、沖縄とアメリカ文化の関係が日常の中に溶け込む様子を象徴的に示しています。その周りに折り鶴を置き、日本の祈りや記憶の象徴として静かに参照させています。3つの文化を対立としてではなく、一つのまな板の上に共存する存在として扱うことで、あいだに生まれる距離感やみえない関係性をそっと浮かび上がらせたいと考えています。このシリーズは、強い主張を掲げるためではなく、小さな物と光の配置を通して、多層的な世界の成り立ちを捉える静かな視点を提示するものです。鑑賞者が自身の経験を重ね、個々の物語を読み取れる余白を残したいと思っています。
史 晨白
テーマ:赤い花
史 晨白
幼い頃の記憶の中で、祖母の家がある3507工場団地は、まるで童話に描かれる不思議な森のように果てしなく広がっていた。団地の人々は一日中のんびりとした様子で、中庭のあちこちに集まり、世間話に花を咲かせていた。当時、まだ市街地から遠く離れた郊外にあった3507団地の正門は、行き止まりの道の突き当たりにあり、緑色のフェンスと鉄線の向こうには、作物のない赤茶けた大地が続いていた。3507工場は中国西安に位置する衣料品工場である。1950年代から、多くの工場が建設され、それに伴い工場団地が誕生した。当時の社会環境では、医療や教育などの設備が整った工場団地で生活できることは幸せなことだった。そこに暮らす人々は共通の信念と生活経験を持ち、工場団地は単なる住居ではなく、故郷のような存在であった。しかし、改革開放の到来とともに、多くの工場が転換期を迎えた。かつて続いた安定した日常は、時代の波に飲み込まれた。社会の中で居場所を失った労働者たちは、アイデンティティの危機に直面した。現在、工場の敷地は転用され、高層マンションが建ち、かつての団地はわずかに残るだけである。 私がカメラを持ってこの土地を「さまよう」ようになり、人々の家の中へ入る機会が増えるにつれて、象徴的な物事が現れ、表面の厳粛さの下に隠されていた不条理が露わになっていった。どの会話にも揺るぎない理想や信念を感じ、その強さがこの土地の人々への尊敬を深めていった。この土地にある奇妙さ、哀しさ、誠実さ、諦め、そして創造性が混ざり合うとき、彼らのロマンチシズムと生命力が浮かび上がる。それは言葉では正確に表現できない感覚である。工場と労働者たちは、かつての熱い時代を証明する勲章のように存在し、消えゆくこの土地の記憶が確かにここにあったことを示している。だが、たとえ記憶の中であっても、彼らがもう一度居場所を得ることはないのかもしれない。
丹野雄二
テーマ:身土不二
丹野雄二
身土不二とは、「人間の体と、人が暮らす土地は一体である」という仏教に由来する言葉です。山口県宇部市にある楠クリーン村では、自らの生活と命を自分たちの手で支えることを大切にしながら、鶏を育て、卵を集め、畑を耕し、火を起こし、食べ、眠るという日々を積み重ねています。そこに贅沢や効率はなくとも、欠乏ではなく、むしろ静かな「豊かさ」を感じました。自然とともにある時間の流れは、消費と速度に支えられた社会とは対照的であり、人と土地が再び結び直される可能性を静かに示しています。この作品は、彼らの暮らしを記録したものです。しかし同時に、未来への問いかけでもあります。人はどのように土地と関わり、生きることを選んでいけるのか。誰かが用意した仕組みの中ではなく、自らの手で「暮らし」を形づくることはできるのか。彼らの日々を見つめ続ける中で、身土不二という言葉は理念ではなく、確かに存在する生のかたちとしてそこにありました。この写真群が、人と土地のつながりに宿る可能性と、「豊かさ」と呼ばれるものについて、静かに考えるきっかけとなればと思います。
濱 未亜
テーマ:日常イズワンダー
濱 未亜
私はいつもセルフポートレイトで作品を制作しています。都市や街の中に自分を置く事で日常の風景はわずかに姿を変える。大きな非日常ではなく日常の風景の中に自分を置く行為。何か小さな違和感やズレを見る人に楽しんでもらいたいと思っています。
総評
今年のZOOMS JAPAN(フランス/サロン・ド・ラ・フォト)審査員の目に特に際立って映ったのは、時間、文化的アイデンティティ、個の自立、そして人間と環境との関係といったテーマを中心に据えた、5人の写真家による卓越した作品でした。明森弘和の作品は、花のライフサイクルに焦点を当て、枯れゆき、消えゆく姿を捉えています。その写真は無常観を喚起し、静物写真という枠を超えて展開する、時間についての詩的な省察を提示しています。奥西優子の写真は、沖縄における日本文化とアメリカ文化の共存を探求しています。日本とアメリカ双方に由来するハイブリッドな対象物を用いた彼女の静謐なスティルライフは、第二次世界大戦後のアメリカの影響によって生まれた深い文化的融合を浮かび上がらせます。スパム缶と折り鶴といったオブジェクトの並置は、沖縄の変化し続ける文化的アイデンティティについて、鑑賞者に思索を促します。史晨白のエレガントな作品は、かつて工場を中心に栄えたコミュニティへの郷愁を探求するものです。近代的な都市化のために閉鎖された祖母の住んでいた地区を再訪し、色彩と光に富んだ写真で、かつて活気に満ちていた共同体の名残を捉えています。これらのイメージは静けさを湛えながらも、背後にそびえる現代的な高層ビル群が、時間の不可逆的な流れを示唆しています。丹野雄二の写真は、スピード感あふれる都市生活とは対照的に、自然との調和の瞬間を映し出しています。彼の繊細な作品は、「身土不二」という思想を反映し、環境とのより深いつながりや内省を促します。そのイメージは、富に対する従来の価値観に疑問を投げかけると同時に、私たちが土地にどのような影響を与え、どのように関わっているのかを問い直します。濱美亜の作品は、活気あふれる都市空間にユーモアをもたらします。彼女のセルフポートレートでは、都市の風景の中で時に予想外のポジションに身を置く自身の姿が描かれ、そこから彼女の自立心や、個人が周囲の環境に与えうる影響が表現されています。さまざまな役割へと変身することで、濱は都市の中における自身の強い存在感を示しています。本賞を通じて紹介されたこれらの作品は、現代日本写真に見られる多様な創造的アプローチを観察する新たな機会を私たちに与えてくれました。とりわけ、これらのアーティストの作品においては、アイデンティティと「時間」という概念の重要性が、最も優先されるテーマとなっています。
── サイモン・エドワーズ Les Zooms/ZOOMS JAPAN 審査統括責任者
審査員
Stéphane Brasca
雑誌『de l'air』の創刊者兼ディレクター ジャーナリストとして訓練を受けた後、記者として働き、その後、雑誌や書籍の編集者としてキャリアをスタートさせた。展覧会のコンサルタントやキュレーターとしても活躍。ニースとパリを行き来しながら仕事をしている。『de l'air』は2000年に設立。新進、ベテラン、フランス人、外国人、有名、無名にかかわらず、才能ある写真家による優美なレイアウトと多彩な作品が特徴。2001年、『de l'air』は、MEPで開催された回顧展「Génération de l'air」の対象となった最初で唯一の存続している雑誌である。
photo credit: Marc Pollini
Cyrielle Gendron
『PHOTO』編集長 ジャーナリズムを学んだ後、2012年にPHOTO編集部に加わり、現在ではさまざまな写真賞の審査員として才能を発揮している。フランス最古の写真芸術専門誌である『PHOTO』は、1967年の創刊以来、現代写真の巨匠たちに焦点を当て、一方で新たな才能の発掘もしてきた。季刊誌として発行されるこの雑誌は、世界中の読者に支持されており、世界の主要な文化イベント(Salon de la Photo、PhotoEspaña、Paris Photo、Planches Contact、Photo Climatなど)とのパートナーを結んでいる。
Thibaut Godet
『Réponses Photo』編集長 フォトジャーナリストを目指し、フランス国立高等報道学院(IFP)で学び、地方紙(Courrier de l'Ouest、Maine Libre)を経て、2022年より『Réponses Photo』誌の編集長を務める。ニュースページや写真集ほか、さまざまな特集記事、SNS等を手掛けた。
Fabrice Laroche
『Fisheye Magazine 』編集長 これは、写真とストーリーテリングへの情熱を自然に発展させたものであり、現在は出版を通じてその探求を続けています。
写真家・映画作家として、彼はアーカイブや実験から着想を得た個人的な作品を制作しており、2013年から2024年までゴブラン校で教鞭を執った経験によってさらに豊かなものとなっています。
2000年代初頭から、彼は個人的な写真プロジェクトと依頼された仕事を交互に手掛けてきました。
ティーンエイジャーの頃からアナログ暗室技術を学び、1990年代にはパリで最も象徴的なスタジオのひとつで現代写真の著名な人物たちと共に仕事をしながら、写真家としての第一歩を踏み出しました。
Léonor Matet
時事問題を報道、解説、解読する写真専門の季刊誌「Polka」図像学者図像学者兼共同制作責任者。美術史を学び、La maison rouge - Fondation Antoine de Galbertで2年間過ごした後、マグナム・フォトで展覧会制作に携わり、L‘Oeil de la Photographieの編集組織を担当。2016年に『Polka』チームに参加。
Damien Roué
2008年に創刊されたフランスの写真ニュース専門オンラインメディア『PHOTOTREND』の共同創設者兼編集長。機材レビュー、最新ニュース、写真家による解説、インタビューなどを掲載している。インスピレーションや実用的な情報を求める写真愛好家にとって欠かせない存在となっている。
Gérald Vidamment
ジャーナリスト/作家/写真家/企業家
『Compétence Photo』編集長
30年にわたり日刊紙や雑誌のジャーナリスト、作家、写真家、企業家として活躍。2008年より『Compétence Photo』の編集長を務める。また、2019年からはフランス語圏の出版・自費出版写真作品の作者を毎年表彰するPrix HiP du livre de photographie francophoneのディレクターも務める。1999年にフランスのテレビ番組に関する初の電子ガイド「Canalzap」や、2006年にウェブや列車内で配信される初のデジタル音楽雑誌「Full Of Sound」などの設立者でもある。日本への情熱も強く、江戸時代の紙幣の数少ないフランス人コレクターであり専門家でもある。
結果発表
グランプリ・準グランプリ発表
2025年2月20日(金)予定
※CP+2026にて、グランプリ・準グランプリ受賞作品とあわせて、ショートリストに選出された作品も展示予定。
CP+2026 情報
CP+ 2026
開催日時
2026年2月26日(木)~3月1日(日)10:00〜18:0
※最終日のみ17:00まで
※2月26日(木)10:00〜12:00はVIP・プレス・インフルエンサー入場時間
入場料
無料(事前登録制)
会場
- パシフィコ横浜
- WEB
- 〒220-0012 神奈川県横浜市西区みなとみらい1-1-1
- Google Map
行き方・アクセス
<電車>
みなとみらい線「みなとみらい駅」クイーンズスクエア連絡口、クイーンズスクエア2F通路直結
みなとみらい線「みなとみらい駅」2番出口から徒歩で5分
京浜東北・根岸線「桜木町駅」東口から徒歩で12分