【龍崎翔子のクリップボード Vol.31】ギルトフリーなサマーリゾート

龍崎翔子<連載コラム>

龍崎翔子<連載コラム>第2木曜日更新
24歳にして5つのホテルを経営する
ホテルプロデューサー龍崎翔子が
ホテルの構想へ着地するまでを公開!

【龍崎翔子のクリップボード Vol.31】ギルトフリーなサマーリゾート

南の島とか、オアシスとか、常夏の楽園みたいな概念が大好きなのだが、いざ実際に行くとなるとバカンスを手放しに楽しみきれない自分がいる。

そもそもいわゆるリゾートが、余暇を過ごす観光客を受け入れるために整備された観光地である以上、リゾートの歴史と植民の歴史(支配-被支配関係の歴史)は不可分で、外部の資本が入り大規模な開発が行われていること自体がその力関係を物語っている。

中でも、いわゆる「南の島」的な光景の広がる南洋諸島の小国なんて、ただでさえ資源に乏しく軍事力に劣るのに、海洋覇権の勢力拡大競争の要石だから大国に翻弄される運命になるのが不可避なわけで、沖縄もハワイもサイパンもグアムもカリブ海もいつも悲しい後ろ暗い歴史と隣り合わせで、そこで能天気に非日常を満喫すること自体なかなか難しい。

かつて銃弾が降り注いだ沖縄のさとうきび畑を駆け抜ける湿った風を肌に感じるたび、ゾワっとした感覚が身体を駆け巡るし、カリフォルニアから太平洋を渡って運ばれてきた白砂が敷き詰められたワイキキのビーチに身をうずめるたび、この地下深くには火山島であるハワイ本来の黒い砂が眠っているのかと思いをはせて、自分の美しい余暇は誰かの犠牲と悲しみの歴史の上に塗り固められた虚構なんだと実感する。

さらに事態を難しくしているのは、そういう場所は結局のところ観光業が主要産業になっているから、じゃあ行かないっていうのが是なわけでもなく、ただただ自分が暗い歴史と地続きの構造に乗っかっているだけの無力さをひしひしと感じるばかりで、要するに、旅をするとき無意識に土地の歴史に目を向けてしまう私のような人種にとって、リゾートに行くことは、多くの場合ギルティな気分に陥ってしまう危険性をはらんでいるのである。

負の歴史が存在しない土地なんてない。自分が満喫している非日常空間と地続きの、その街が抱える過去と向き合うしかない。でも、願わくば、後ろ暗い過去のない、ギルトフリーなサマーリゾートがいい。誰も傷つけない、誰も犠牲にしない、私たちの脳内だけにある虚構のユートピアがいい。

今年の夏は、混沌とした世情も、未来の見えない不安も何もかも忘れて、インターネットの海に溺れる、幽玄のサマーバケーションに旅立ちたい。

龍崎翔子

2015年、大学1年生の頃に母とL&G GLOBAL BUSINESS, Inc.を立ち上げる。「ソーシャルホテル」をコンセプトに、北海道・富良野に『petit-hotel #MELON』をはじめとし、大阪・弁天町に『HOTEL SHE, OSAKA』、北海道・層雲峡で『HOTEL KUMOI』など、全国で計5軒をプロデュース。京都・九条にある『HOTEL SHE, KYOTO』はコンセプトを一新し、2019年3月21日にリニューアルオープン。

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