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スピリチュアルの窓/龍崎翔子のクリップボード Vol.61

龍崎翔子<連載コラム>第2木曜日更新
HOTEL SHE, 、香林居、HOTEL CAFUNEなど
複数のホテルを運営する
ホテルプロデューサー龍崎翔子が
ホテルの構想へ着地するまでを公開!

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スピリチュアルの窓/龍崎翔子のクリップボード Vol.61

幼少期からの英才教育が功を奏し、科学を信奉し科学的根拠を求める人間として長らく生きてきた。漢方薬を飲んでいる人には、それってエビデンスあるんですかね?と問い、占いをしたという人には、占いは統計学っていいますもんね、と寄り添い、金縛りにあったという人には、疲労などで筋肉が硬直することあるみたいですよ、と諭し、世の非科学的とされるものや、それらを信じる人からは心なしか距離を置くような、そんな人間だった。身の回りもそんな人ばっかりだったから、そんな自分の姿に全く違和感を感じることはなかった。

北海道でホテルをしていた時、近くにハーブ農園があることを知って見学に伺ったことがあった。旭川の農園地帯に現れる広大なハーブ畑では、ラベンダーにレモングラス、ホーリーバジルにカモミール、たくさんのハーブたちが女手ひとつで丁寧に栽培されていた。これらのハーブは、蒸溜されて精油として販売されているそうだった。

「ちょっとした傷や火傷も、精油を垂らせば良くなるんですよ」と女主人は言った。え、精油ってただの香り成分ですよね?という言葉を必死に飲み込む間もなく、一緒に来ていた友人(以前からこのハーブ園を知っていたという)が「ここの精油は本当に浄化力が高いの」と教えてくれた。浄化力、という聞き慣れない言葉に、なんだか見てはいけないものを見てしまった時のような気持ちになった。

このハーブ園には、ひとりひとりに合わせてハーブティーをブレンドしてくれるサービスがあった。どうハーブを選ぶのかしらと一同で固唾を飲んで見守ると、女主人はその場で目を閉じて、何種類ものハーブが所狭しと敷き詰められた分類箱のひとつひとつの上に手を翳しては考え、翳しては考え、時折ハーブを掬って袋に入れだした。何をしているのですか、と訊ねると「オーリングテストをセルフでやっています」という未知の答えに遭遇し、私は困惑した。怪しくなってきた雲行きに、どうしたものだろうかと同行者たちの顔色を横眼でチラリと窺うと、「オーリングか、なるほど」と特に疑問を抱く素振りもなく、さも当たり前のことであるかのように受け入れている姿に、脳みそを殴られたかのような感覚を抱いたのだった。


結局、あの場にいた私以外の誰もがほくほく顔でハーブティーを購入した時、私は初めて自分が生きてきた世界が音を立てて崩れ去ったことに気がついた。それはまるで、アスファルトの切れ間から草が生え、剥き出しの大地の片鱗が姿を覗かせているのを目の当たりにして初めて、自分が踏みしめている地面は土と砂の上にアスファルトを綺麗に被せたものだったと気づいた時のように、私の生きている世界が突如として歪み、この世界は私には理解できない有象無象の現象の上に、科学的な解釈が舗装されていただけだったのだと突きつけられたような気がした。

またある時、視察先の沖縄で、とあるパン屋に伺ってお話を聞かせてもらった時のことである。「チェルノブイリの湧き水を再現した水を使ってパン生地を作っている」という文言を見かけ、これは、と武者震いした。「開業前にダウジングをして土地の気の流れを整えた」と語るご主人に、同行していたガイドの方が「このエリアは沖縄戦の時壮絶な激戦地だったのですが、ご主人のおかげでこの一帯だけは気が良いんです」と言葉を添えた。ぐにゃりとまたしても世界が歪むような感覚を抱きながら辺りを見渡すと、確かに、鬱蒼とした沖縄の森の中で、その辺りだけがどことなくのどかで、牧歌的な気配に包まれているような気がした。

ご主人はご自身の考えについて話す時、なんだか躊躇いながらおずおずと話しているような気がして、私はなんだか原理主義的な科学教徒である自分の本性が見透かされているような気がして、居た堪れないような気持ちになった。でもそれと同時に、ご主人の考えについて、その見えている世界をもっと知りたいような気もした。科学的な正しさを物差しに世界を測ることもできるけれど、敢えてその人の抱く世界の姿をそのまま受容するという選択肢もあることに気づいたとでも言おうか。

思えば、子供の頃、おまじないが好きだった。花びらをもぎって水に浮かべたり、緑のペンで手のひらに願い事を書いたり。明らかに非科学的で、効果の程も定かではないけれど、祈りにも似た気持ちで夜な夜な魔法をかけていた。私は結局科学教の信奉者であることは変わりないのだけれど、曖昧なものを曖昧なまま受容することで見えてくる、異世界への窓がどこかにあるのかもしれない。

龍崎翔子

龍崎翔子/SUISEI, inc.(旧:株L&G GLOBAL BUSINESS, Inc.)代表、CHILLNN, Inc.代表、ホテルプロデューサー
1996年生まれ。2015年にL&G GLOBAL BUSINESS, Inc.を設立後、2016年に「HOTEL SHE, KYOTO」、2017年に「HOTEL SHE, OSAKA」を開業。
2020年にはホテル予約システムのための新会社CHILLNN, Inc.、観光事業者や自治体のためのコンサルティングファーム「水星」を本格始動。
また、2020年9月に一般社団法人Intellectual Inovationsと共同で、次世代観光人材育成のためのtourism academy "SOMEWHERE"を設立し、オンライン講義を開始。2021年に「香林居」、2022年に「HOTEL CAFUNE」開業。

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