menu

アナログなアイテムたち/龍崎翔子のクリップボード Vol.04

龍崎翔子<連載コラム>第2木曜日更新
HOTEL SHE, OSAKA、
HOTEL SHE, KYOTOなど
25歳にして5つのホテルを経営する
ホテルプロデューサー龍崎翔子が
ホテルの構想へ着地するまでを公開!

  • 作成日:
  • 更新日:

ADVERTISING

アナログなアイテムたち/龍崎翔子のクリップボード Vol.04

昔から贈り物のセンスがいい人に憧れていた。使い道に困らず、かといって実用的過ぎず、ちょうど欲しかったと思われるようなプレゼント。私はモノへの執着心が薄いのか、いざ特別な日を前にするとアイディアが枯渇してしまって、苦し紛れの贈り物をすることが多かった。

最近は、人にプレゼントを贈るときは、「自分では買わないけどあったら嬉しいもの」を選ぶようにしている。そして、その精神性はホテルのあり方にも繋がってくると感じるようになった。

HOTEL SHE,では、各客室にレコードプレーヤーを置いていて、ゲストがフロントで好きなレコードをdigってお部屋で楽しむことができるようにしている。これは、ホテルのコンセプトや街の空気感に合わせて落とし込んだサービスなのだけど、実は思いついたきっかけは友人からのプレゼントだった。

21歳のクリスマスに、友達が私にプレゼントしてくれたのが、アナログレコードプレーヤーと、AviciiのLP盤だった。平成生まれの私にとっては「針を落とす」という表現ですら活字の中でしか出会ったことがなく、せいぜいDJをやっている友達の家か、音楽にこだわっているバーに置かれているくらいの代物で、いくら音楽が好きで、憧れがあったとしても、自分でお金を出して買って自室に置くという発想はどうやっても出てこないものだった。

しかし、いざ自分の部屋にレコードプレーヤーが鎮座すると、実際に盤に針を落とし、温かいノイズに耳を傾け、音楽に包まれながら寝落ちし、今まで通りすがっていたレコードショップを見かけることがあれば立ち寄って棚を物色するようになり、ひいては自らDJを始めるまでに至った。

このとき初めて、それまで自分の世界にはなかったものが、いざ自分の生活空間の中に現れることで、人生の新たな扉が開かれることってあるんだ、と感じた。そして、“ライフスタイルを試着する“ことができるホテルなら、私が体験したのと同じ出来事を、ゲストに追体験してもらえるのではないかと思うようになった。

親指だけで音楽も映画も楽しめて、どのサービスも躍起になってユーザーの時間を占有しようとするこの時代に、ホテルは一晩、またはそれ以上の時間にわたりゲストの五感を預かる。だからこそ、決して便利ではなくても、敢えて身体性を伴った体験をできるということが、ゲストの人生における豊かな時間に繋がるのではないかと思っている。

北海道・層雲峡温泉にあるHOTEL KUMOIでは、同じような考えから、シーシャ(水タバコ)を楽しめるようにしている。

ホテルはメディアだと思う。それも、空間に時間軸を合わせた、4次元のメディア。この便利な時代に、自分では買わない。でも、素敵だと思う。そんなアナログなアイテムたちを提案するショールームのような空間であり続けたいと思っている。

【龍崎翔子のクリップボード】バックナンバー

Vol.03 チルアウトな朝食

Vol.02 シックなネオンサイン

龍崎翔子

2015年、大学1年生の頃に母とL&G GLOBAL BUSINESS, Inc.を立ち上げる。「ソーシャルホテル」をコンセプトに、北海道・富良野に『petit-hotel #MELON』をはじめとし、大阪・弁天町に『HOTEL SHE, OSAKA』、北海道・層雲峡で『HOTEL KUMOI』など、全国で計5軒をプロデュース。京都・九条にある『HOTEL SHE, KYOTO』はコンセプトを一新し、3月21日にリニューアルオープン。

龍崎翔子 Twitter

龍崎翔子 Instagram
次の記事