シックなネオンサイン/龍崎翔子のクリップボード Vol.02
18歳の時、初めて買った一眼レフを持って夜の渋谷に写真を撮りに行った。帰宅し現像して驚いたのは、夢中でシャッターを切った写真のほとんどが街中の文字看板の光を写していたことだった。
近年のネオンサインのリバイバルは、実際に目に見える光景とスマホで写真に写した姿にギャップがないからだという説がある。確かに夜の街に光る照明は、いざ撮影すると光が広がったりして見た目ほど美しく残らない。それに対して、ネオンサインは色も、形も、光も、目に見えたままに色鮮やかに切り取られる。
そのどことなく暖かくて、懐かしくて、そして妖艶な光に魅せられて、HOTEL SHE, OSAKAではネオンサインで、店先に「SHE,」とだけ書いた。綺麗にプリントされた照明広告とは違って、職人の手仕事ならではの味のある風合いが私たちのホテルによく似合っていると思う。
ネオン職人は年々減っているという。若い世代を中心にネオン照明が再び流行しているとはいえ、日本全体で見れば歓楽街からネオンはみるみる消えていく。身長ほどの大きさのガラス管をバーナーで熱して曲げ、ネオンガスやアルゴンガスを詰め、両端の電極に高電圧を加えられることで発光するネオン管。その全てが、機械では再現することができない職人技によって担われているという。
「ネオンアーティスト」という職業に出会ったのは去年の春先のこと。仲のいい京都の宿で行われたHOTEL SHE,のイベントで、空間装飾となるネオンアートの製作を依頼したのがきっかけだった。京都の北にある小さなスタジオで、曲げられる前のガラス管や、電流を流す装置、ガスバーナーに囲まれて打ち合わせをしたのだった。家主の佇まいが隅々まで染み渡っている豊かな空間に、かつてNYで展示したというネオンアートの作品が柔らかな光を放っていた。
アメリカ・サンフランシスコで行われた「MUSEUM OF ICE CREAM」。アメリカ中で驚異的な動員を実現した、フォトジェニックな体験型アート空間の草分け的存在だが、私の心を捉えたのはミュージアムの一角に佇んでいたネオンだった。ワンピースの水着に水泳帽でプールに飛び込もうとしているブロンドの女性をかたどったそのネオンは、ミュージアムの情報とともに世界中に広まり、私がinstagramで何度も目にしたものだった。
たとえ、その実物が放つ光がどんなに微かで、辺りをほのかに照らすだけであったとしても、写真で美しく切り取られることで手が届かないほど遠くまで広がり、スポットライトを浴びうるんだと感じたことが心に残っている。
そんな私の自宅には、ミニサイズのネオンがインテリアとして壁にかけられている。ホワッとしたオレンジ色の白熱灯の光に、ピンクの光が入り混じって空間に芳醇みが増す。10000円せずに買えるものも多く、デザインも豊富なんです。ネオンラバーの皆さん、ぜひ豊かな生活のおともに、お手にとってみて。
【龍崎翔子のクリップボード】バックナンバー
龍崎翔子
2015年、大学1年生の頃に母とL&G GLOBAL BUSINESS, Inc.を立ち上げる。「ソーシャルホテル」をコンセプトに、北海道・富良野に『petit-hotel #MELON』をはじめとし、大阪・弁天町に『HOTEL SHE, OSAKA』、北海道・層雲峡で『HOTEL KUMOI』など、全国で計5軒をプロデュース。京都・九条にある『HOTEL SHE, KYOTO』はコンセプトを一新し、3月21日にリニューアルオープン。