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幽玄のユートピア/龍崎翔子のクリップボード Vol.44

龍崎翔子<連載コラム>第2木曜日更新
HOTEL SHE, OSAKA、
HOTEL SHE, KYOTOなど
25歳にして5つのホテルを経営する
ホテルプロデューサー龍崎翔子が
ホテルの構想へ着地するまでを公開!

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幽玄のユートピア/龍崎翔子のクリップボード Vol.44

福生や横須賀にあるようなアメリカンダイナーとか、NYのパンダエクスプレスで配られるフォーチュンクッキーとか、「本物」ではないかもしれないけれど「エセ」とも言い難い、異文化の中での憧憬を感じるような、虚構が醸し出す哀愁や人間臭さが好きなんだろうなとふと思った。

気づけば身の回りには何が「リアル」で何が「フェイク」か、みたいな評論であふれていて、曖昧で重層的なものに対して線を引こうとするような議論が好きじゃないと内心反発しつつも、一方で物を作ることはつまりそのジャッジメントに晒されることを甘受することだとすら思っていた。私が作っているものは果たして本物なのか、偽物なのか、そして本物だとしてその耐久性はどのくらいあるのか、そんなことを考えながら過ごしていた。

でも最近になって思う、ホテルの本質とは虚構なのだと。

楽しいことばかりではない日常を離れ、生きていくための生活を離れ、胸が高鳴り心ときめく、愛すべき作り物の世界に浸る。装飾され、取り繕われ、スポットライトが燦々と当たる舞台装置としてのホテル、演者としてのホテルマン、そして観客としてのゲスト。

それは私が、見渡す限り砂漠とサボテンしかない西部のハイウェイのドライブに飽きて、ラスベガスの豪華絢爛なホテル群を目の当たりにした時の異様に陽気な光景そのもので、私はハリボテのホテルで夢を見て、自分の人生を見つけたのだとも思う。

思い返せば、私の作るホテルはどれもユートピアがテーマだった。オアシスとか、桃源郷とか、ロードサイドモーテルとか、表現の仕方自体は様々だったけれど。

現実は退屈で、不毛で、でも人生は長い。人は白昼夢を見るために、逃避行する。たとえそれが作為的に作られた空想世界で、安住することはできないと知りながらも、人は夢の世界に浸ることを諦めない。

ユートピアとディストピアは裏表だと思う。全ての人が平和に暮らす秩序ある世界というのは、一方でその秩序を”乱している”とされる人を徹底的に排除する集落でもある。ユートピアという概念自体が虚空を掴むような言葉であると知りながらも、人は心にユートピアを住まわせる。

虚構を愛し、虚構を愛す人も愛す。でもいつだって思う、人間を人間たらしめるのは虚構を想像し創造する力なんじゃないのかと。

龍崎翔子

2015年、大学1年生の頃に母とL&G GLOBAL BUSINESS, Inc.を立ち上げる。「ソーシャルホテル」をコンセプトに、北海道・富良野に『petit-hotel #MELON』をはじめとし、大阪・弁天町に『HOTEL SHE, OSAKA』、北海道・層雲峡で『HOTEL KUMOI』など、全国で計5軒をプロデュース。京都・九条にある『HOTEL SHE, KYOTO』はコンセプトを一新し、2019年3月21日にリニューアルオープン。

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