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うにが好きだ/市川渚の“偏愛道” Vol.11

市川渚<連載コラム>第1・第3日曜日更新
ファッションとテクノロジーの世界で活躍する
クリエイティブ・コンサルタント市川渚が
身の回りのモノ/コトへの強いこだわり=偏愛を語る!

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うにが好きだ/市川渚の“偏愛道” Vol.11

小学生くらいの頃、近所に市場とスーパーの中間のような海産物が豊富に揃うお店があって、そこでよく白木の小さな箱に入ったうにを買ってもらっていた記憶がある。
これまでのこの連載を読んでいただいた方であれば想像がつくと思うが、一度ハマったらそれ一筋、自分で突き詰められるところまで突き詰めていく性格は食生活にもよく現れていて、子どもの頃から何かにハマると飽きるまでひたすらそれを毎日のように食べ続けるという習性があった。うにも然り。ところが、ある日食べたうにが、同じ食べ物だとは思えないくらい美味しくなかったのだった。驚いた。その日から、うにがすっかり嫌いになってしまった。

時は流れ二十歳そこそこの頃、仕事の会食で連れて行っていただいた和食店。どう考えても二十歳そこそこの若造が行くようなお店ではなかったが、そこで久しぶりにうにを頂いたのだった。「うには好きだった頃もあるけれど、基本的に美味しくない」。子どもの頃の体験からすっかり悪いイメージになってしまっていたが、勧められるままに頂いてみると、これが目が覚めるほどの美味しさだった。こんなに美味しいうにがあるのか、と驚き、その後どんどんうににハマっていった。
うには美味しいものとそうでないもの、その差が激しい。「うには0か100の食べ物なんですよ」なんて大袈裟に表現してしまうこともよくあるのだが、ランクを1から10つけるとしたら、1、2がお世辞にも美味しいと言えないようなうに、美味しいと笑顔で食べられるものが8、9、10の三段階くらい。3から7に位置するような「普通においしい」ものに出会わない、そんな極端な食べ物だと個人的には評価している。

うにはなんと言っても、まず名前が可愛い。うに。うに。うに。字面も、語感も可愛い。そして「さわるなキケン」とアピールしてくるこの見た目。最初にこれを海中から拾ってきて、殻を開けて、中身を食べてみようと思った人を称えたい。普通はどう考えても食べられそうだなんて思わないだろう。そんなキケンな香り漂う外見に反して、中身はとろりとクリーミー、濃厚な旨味のかたまり。こんな魅力の詰まったアブナイ食べ物、他に存在するだろうか。いや、しない。

うにとひとことで言っても、さまざまな種類がある。食用のうち、メジャーどころだと、キタムラサキウニやエゾバフンウニ、バフンウニだろう。東日本から北日本で獲れるキタムラサキウニはうにの中でも“普及機種”のような存在で、比較的気軽に頂くことができる。身が大きく、明るく浅い黄色をしている。お味はあっさりめだが舌触りは濃厚なものが多い。表面のシボが粗いのも特徴。これは以前、宮城の女川からお取り寄せしたキタムラサキウニ。

基本的に高級食材であるうにだが、キタムラサキウニよりも高級とされているのがエゾバフンウニとバフンウニ。この二者は素人ではほぼ見分けがつかない。双方ともにキタムラサキウニによりも小ぶりで、黄色というよりもオレンジ色をしているのが特徴。味は濃厚で、舌の上でサッと溶けていく。美味しいうにと言ったらエゾバフンウニの名前を思い浮かべる方は多いと思う。

そのほかにも、日本で食べられるうにとしては赤ウニやシラヒゲウニがある。産地によって味は微妙に違うけれど、濃厚かつ強い甘みが特徴。個人的には九州で獲れる(とくに唐津や平戸)赤ウニが一番好きだ。

うにと言うと北海道や東北のイメージがあるかもしれないが、西日本で獲れるうにも絶品。特に熊本や長崎、山口で夏場の短い時期にしか獲れない赤ウニは絶品である。関東に住んでいるとなかなか出会えない逸品でもあるので、見かけたら是非、頂いてほしい。 度肝を抜かれる美味しさである。
通販もできる「小林商店」には年に数回、九州で獲れた生赤ウニの瓶詰めが入荷するので、よく購入している。すぐ売り切れてしまうので、メルマガやLINE@などで情報をチェックしておくのが必須だ。また年に何回か出店されている百貨店の催事に伺うこともある。天候が悪く赤ウニの入荷がないということで、鹿児島産のムラサキウニを購入したこともあった。

シラヒゲウニはそれよりさらにレアで、私は一度しかお目にかかったことがない。こちらはバフンウニや赤ウニよりあっさりしていてしつこさがないのに、甘みがあり、非常に上品なお味がする。

人間もそうだけれど、うにもどこで何を食べて育ったか、つまりどういった環境で育ってきたかで味が変わる。同じ種類でも産地によって微妙に味に違いが出るのだ。中目黒にあるお寿司やさん「尚充」では、さまざまな種類・産地のうにの食べ比べをすることができる。私が行ったときは隠れメニューのようなものだった覚えがあるのだけれど、今はうにの食べ比べが名物になっているようだ。

食べ比べではなくとも、カウンターのお寿司屋さんであれば、「これ、どちらの何うにですか?」とうかがえば、喜んで種類や産地を教えてくれるはず。多くの場合、箱に入った状態のうにを見せてくれるので、板の上に美しく並べられキラキラと輝く新鮮なうにを眺めるのも至福のひとときである。

また、うには時期によって獲れる場所や種類が変わってくるのだけれど、この「宝うに」は年中、手に入りやすい上にお味も安定していて間違いなく美味しいのでおすすめだ。北海道・礼文島のエゾバフンウニを蒸して缶詰にしたもので、蒸したことによって凝縮される濃厚な旨味がたまらない逸品。日本酒に非常によく合う。ちなみにエゾバフンウニではない、キタムラサキウニバージョンもある。

そんなうにたちも産地の観光客の減少、外食産業の営業自粛できびしい状況におかれていると耳にする。こんな機会だからこそ、積極的に産地からお取り寄せをして、お家でうにパーティーをするのもよいかもしれない。高級食材を自宅で存分に楽しめるなんて、なかなかない機会のはずだ。そして美味しいうにを手に入れたら、ぜひ塩で食べてみてほしい。少しの塩味がうにの甘みを引き立てつつ、あっさりと頂けるので、いくらでも食べられてしまう。

いろいろな状況が落ち着いたら、九州や北海道、東北へ新鮮なうにを頂きに、うに旅に出かけたいところである。

市川渚

1984年生まれ。N&Co.代表、THE GUILD所属。
ファッションとテクノロジーに精通したクリエイティブ・コンサルタントとして国内外のブランド、プロジェクトに関わっている。自身でのクリエイティブ制作や情報発信にも力を入れており、コラムニスト、フォトグラファーやモデルとしての一面も合わせ持つ。

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