東洋医学のデトックスリトリート/龍崎翔子のクリップボード Vol.36

龍崎翔子<連載コラム>第2木曜日更新
24歳にして5つのホテルを経営する
ホテルプロデューサー龍崎翔子が
ホテルの構想へ着地するまでを公開!

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東洋医学のデトックスリトリート/龍崎翔子のクリップボード Vol.36

高校の時、病気を抱えた親友と家族ぐるみで中国に旅行に行ったことがあった。そこでお世話になった方に、あなたのお友達はきっと中国で療養した方がいいよ、と言われた。漢方薬はどこかを局所的に治すのではなく、身体全体の気の巡りを良くして整えてくれるから、と。結局それは諸々の事情によってかなわず、その後私は西洋医学の信者となって、何をするにも科学的根拠を求める大人になってしまった。

大学も卒業に近づいたある時、美容情報を交換している女友達から『漢方に行っといた方がいいよ』と言われた。ちょっと体が浮腫むとか、便秘がちとか、生理痛が重いとか、そういうささやかな身体の不調が良くなるから、と聞いた私は、その足で本郷三丁目に昔から続く漢方薬局に駆け込んだ。突然息を切らして飛び込んできた金髪の女子大生を、漢方医は少し驚いた様子で普段ご老人が待合しているソファにかけさせた。

最近太りやすくて、手足も浮腫むし、なんかニキビも増えたし、髪もパサつくし、蕁麻疹が出がちだし、時々ベロから血が出るし、と自分の身体について思い当たることを全てぶちまけた。長年健康体としてやってきていて、頭痛も腹痛もほとんどないので自分の身体について意識したことがほとんどなかったのだが、思いつく限り話した。そして、漢方医は『あなたは上半身が熱く、下半身が冷えているため、気が上に溜まっている』と言い、私に当帰芍薬散を処方した。

今年の夏、私が運営する「HOTEL KUMOI」のある層雲峡に行くと、大雪山の麓の森の中でデトックスできるようなプラン『ウェルネスステイ』がしたい、とスタッフから提案された。ウェルネスツーリズムが来る、といった類の話は数年前から徐々に高まりを見せていて、もちろん知らなかったわけではないのだが、その時急にピンと来るものを感じた。このプランのために1泊2食で泊まりに来てくださる方はそんなに多くないだろう、でももしこれがもっと長かったら?

昔、知人に「層雲峡というとこで宿をやってて」と話した時に「なんか仙人が住んでそうだね笑」と言われて、言い得て妙だなと思った。実際の景色も柱状節理の渓谷に濃い霧がかかっていて中国の水墨画の世界のようで、あたかも仙人が遁世し不老長寿の妙薬が眠ってそうな土地だ。そんな場所で、今までの生活を断ち切って過ごす、そして自分の心身を整え、持ち帰ることができたら、それはこの地でしかできない宿泊体験となりうるんじゃなかろうかと。

スリランカのアーユルヴェーダ治療院に行きたいと言っている間に渡航が不自由になってしまったのだが、南インドやスリランカに古からつたわる、その健康に対する思想体系は実によく観光資源化されているなと感じる。それはもちろん植民地支配の歴史とは無縁ではないのだろうが、結果として世界中の人が注目し実践し浸透しているのは事実だと思う。一方で、東アジアにも数千年にわたって洗練され体系化されてきた健康哲学がある。でも、それを生活に落とし込んで体験できる場はほとんどない。

人里離れた秘境の温泉街。そこで東洋医学思想に基づいてひとりひとりの体質に合わせた生活を処方し、それを持ち帰ることができる。そんな、次の一年を整えるリトリートを作りたい。

龍崎翔子

2015年、大学1年生の頃に母とL&G GLOBAL BUSINESS, Inc.を立ち上げる。「ソーシャルホテル」をコンセプトに、北海道・富良野に『petit-hotel #MELON』をはじめとし、大阪・弁天町に『HOTEL SHE, OSAKA』、北海道・層雲峡で『HOTEL KUMOI』など、全国で計5軒をプロデュース。京都・九条にある『HOTEL SHE, KYOTO』はコンセプトを一新し、2019年3月21日にリニューアルオープン。

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