【龍崎翔子のクリップボード Vol.35】空を見に行く旅

龍崎翔子<連載コラム>

龍崎翔子<連載コラム>第2木曜日更新
24歳にして5つのホテルを経営する
ホテルプロデューサー龍崎翔子が
ホテルの構想へ着地するまでを公開!

【龍崎翔子のクリップボード Vol.35】空を見に行く旅

私にとっての旅の醍醐味は、その土地の空気感を楽しむことだと思っている。陽射しの入り方や風の湿度、空や海の青みの微妙な違い。もちろんその日の天気にも影響される部分はたくさんあると思うけれどそれも込みで、その土地のその地形によって生まれる気象条件が、雲や雨をもたらして、その恵みの中で街が育って行ったのだということを実感する。

そんなわけで、思い返せば旅では空や気象現象を見るのが好きな気がする。

今暮らしている層雲峡は市街地から遠く離れた国立公園の中にある温泉街なので、夜が暗くて空気が澄んでいる。谷あいなので名前の通り雲や霧が立ち込めやすいけれど、冬の晴れた日の夜空はこぼれ落ちそうなほどの星が所狭しときらめく。天の川はもう地平線の下に眠っているはずなのに、空にはうっすらと小さな星の集合体が帯状になってまるで天の川のよう。プレアデス星団も流星も肉眼で見える。よく晴れた日には、どうか夜まで雲が訪れませんようにと願って過ごしている。

富良野にいた頃は、夏の朝はやく起きて山に登ると、私の住むペンションや北の峰の街が雲の中に沈んで行く様が見えた。雲海は夏の、雨の翌日のよく晴れた日に出やすいと聞いた。3日に1度くらい現れるから、毎晩朝が来ることを心待ちにしながら眠りについた。

去年の冬、初めて行ったフィンランドではロヴァニエミに3泊もしてオーロラが出るのを待ち続けた。ラップランドに住んでいる人にとってはオーロラはごくありふれた景色だそうだけれど、それでも1週間ずっと見えない日もある。何もない極寒の雪国で、ホテルを転々としながらその夜が来ることを待つ。初夜も二日目の夜も重い雲が立ち込めていて雪が降り続けた。

そして、三日目にしてついに晴れ間が訪れ、意気揚々とオーロラツアーに申し込んだものの集合時間の直前に先方都合でキャンセルされ、アルクティクム博物館で泣いて彼氏を困らせたりした。結局、運良く別のスノーモービルでオーロラを見に行くツアーを見つけ首尾よく参加でき、針葉樹の森の中で凍えながら焚き火を囲み、頭上を踊る白とピンクの光の粒を眺めた。

アルゼンチンでエルカラファテ空港からパタゴニアに向かう道のりは荒涼とした砂漠と草地が入り混じった平原で、車窓から見上げる空は黒々としていて、星が煌めいていた。見渡す限り私たち以外の誰も見えない真っ暗で広大な平野を、小さな車がヘッドライトを光らせながら進んで行く。車内はみんな寝息を立てていて、私は夜空を眺めていた。

旅に行くことと写真を撮ることがセットになって久しい。

写真で見た光景を実際に自分の目で確かめに行って、思い出に写真を撮る旅。ネオン管がリバイバルしたのも、夜でも目に見えたのと同じように写真に残すことができるからという話もあるという。

私のしょぼいカメラでは層雲峡の夜空やロヴァニエミのオーロラを撮ることはできなかったけれど、私の中には網膜に焼き付けて、脳内保存しておくしかない美しい景色があって、それが私の人生を豊かにしていると思う。

龍崎翔子

2015年、大学1年生の頃に母とL&G GLOBAL BUSINESS, Inc.を立ち上げる。「ソーシャルホテル」をコンセプトに、北海道・富良野に『petit-hotel #MELON』をはじめとし、大阪・弁天町に『HOTEL SHE, OSAKA』、北海道・層雲峡で『HOTEL KUMOI』など、全国で計5軒をプロデュース。京都・九条にある『HOTEL SHE, KYOTO』はコンセプトを一新し、2019年3月21日にリニューアルオープン。

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