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人間関係の溶け込むホテル/龍崎翔子のクリップボード Vol.47

龍崎翔子<連載コラム>第2木曜日更新
HOTEL SHE, OSAKA、
HOTEL SHE, KYOTOなど
25歳にして5つのホテルを経営する
ホテルプロデューサー龍崎翔子が
ホテルの構想へ着地するまでを公開!

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人間関係の溶け込むホテル/龍崎翔子のクリップボード Vol.47

小さい頃、よく友達と漫画を描いていた。今思えばかなりいっちょまえに、設定を考え脚本を考えネームを書いて絵を描いて…と手間暇をかけて頑張っていた(ちなみに、完成したものはひとつもない)。新しい構想が湧き上がると、母に話すこともあった。ハワイに住む仲良しの女の子3人組が、恋をしながら冒険をする話で…と、今思えばかなり稚拙で、でも当時としては大真面目に考えたあらすじを滔々と話していると、主人公のライバルの女の子の話に差し掛かったところで母が話を遮った。

母は、ある小説家がエッセイかどこかで語っていた『次の作品に何を書こうかと考えた時に、悪者の登場しない、美しい友情の話を書こうと思った。』との言葉を引き合いに出しながら、本当に読者の心を打つのは想像を超える愛や友情なのだから、この作品に意地悪なライバルはいなくていいんじゃないか?と問うた。

ただ、当時の私は幼少期に読んだ善悪二項対立に準拠した童話集や勧善懲悪の日本昔話に脳が侵されていたので、物語には悪役がいるのが当然だと思っていたし、そもそも友情がテーマの走れメロスにだって意地悪な王様が出てくるんだから、主人公のライバルの意地悪な女の子がいたっていいだろう、と反発した。退屈な平成時代を育っている小学生だったので、物事が自分の思い通りにならないハプニングやスリルな展開を描くのに、少なくとも私の脚本力では、道徳観と倫理観に欠ける恋のライバルは不可欠だったのだ。

結局、数ページ書き上げたところで飽きてしまい、やがて違う作品に取り掛かり始めたのでその女の子が紙面に登場することはなかったのだが、母の言葉はその後の人生にわたって自分の心に引っかかり続けた。

四半世紀の艱難辛苦を乗り越えた今、意地悪なライバルの女の子はいらない、と思う。仲良し3人組がハワイで楽しくやってくれればそれでいい。好きな男の子に告白したりされたりしながら過ごしてほしい。その様子を漫画で覗き見するだけでいい。と、私も思う。日常の中に、純度100%の悪意とは言わないまでも、チクリとしたトゲのある言葉を投げかけられたり、後ろから刺されるような出来事があったり、そんなことに辟易して過ごしている中で、虚構の世界にまで意地悪な人はいらない、と思うようになった。お金を払い、時間を使って楽しむコンテンツでまで、人間の汚い感情に触れたくないですよ、と。

話がだいぶそれてしまったけど、ホテルも同じようなところがあるなとつくづく思う。空間というのは、私たちが思っている以上にそこで生まれた感情を記憶する。誰かが怒られている時に入るスタッフルームは、たとえその人が私の入室を察して言葉をつぐんで無言だったとしても居心地が悪いし、仲のいい夫婦が過ごしている部屋は、たとえ誰もその場にいなかったとしてもどこか暖かくて心地よい。

愛のある空間を作ろう、と思った時に、必要なのは、一緒にその場にいる人への愛だった、とふと気づいた。give&giveで与え続けた愛が、やがて空間に溶け出して、地層のように堆積していくのだろうと。そんな人間関係の溶け込むホテルを作りたいと思った。

龍崎翔子

2015年、大学1年生の頃に母とL&G GLOBAL BUSINESS, Inc.を立ち上げる。「ソーシャルホテル」をコンセプトに、北海道・富良野に『petit-hotel #MELON』をはじめとし、大阪・弁天町に『HOTEL SHE, OSAKA』、北海道・層雲峡で『HOTEL KUMOI』など、全国で計5軒をプロデュース。京都・九条にある『HOTEL SHE, KYOTO』はコンセプトを一新し、2019年3月21日にリニューアルオープン。

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