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私だけのステンドグラス/ぽんずのみちくさ Vol.78

片渕ゆり(ぽんず)<連載コラム>毎週火曜日更新
ほんとに大切にしたい経験は
履歴書には書けないようなことばかり
旅をおやすみ中のぽんずが送るコラム

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私だけのステンドグラス/ぽんずのみちくさ Vol.78

生まれて初めて、傘に一目惚れをした。

それは、何を探すでもなく、あてもなく通販サイトを眺めていたときのこと。カラフルな幾何学模様の傘が、ぱっと目に飛び込んできた。

「あ、」と思った次の瞬間、気づいたら画像を拡大して食い入るように見ていた。光を通す透明なビニール素材で出来ているので、傘の下には色とりどりの影が出来ている。まるでステンドグラスだ。

ステンドグラス。なんて美しい存在だろう。もうどれくらい、本物のステンドグラスを目にしていないだろう。ステンドグラスそのものも好きだが、ステンドグラスを通して落ちる光の美しさと言ったら。厳密にはステンドグラスではないけども、インドで見かけた色ガラスも好きだった。出会うたび、ついつい時間を忘れてうっとり眺めてしまう。

以前、自宅のガラスをステンドグラス風にしたくて、窓に貼れるステッカーを探し回ったこともあった。そのときは結局、ぴったりなものが探せずじまいで諦めたのだった。

今度こそ、myステンドグラスを手に入れるチャンス。しかし、購入ボタンを押す瞬間、ちょっとだけ不安がよぎった。「私の年齢でこの傘は、派手すぎるだろうか……?」

自分の中でのファッションの基準や確固たる憧れを持たずに長年生きてきてしまった結果、私はいまだに、自分が身につけるものに関して、自信を持って選択ができない。10代の頃から「モテ」「男ウケ」「先輩ウケ」みたいな、第三者を軸にしたキーワードを大量に摂取してきたからしょうがないかな、とも思う。いや、気にするまい。もういいんだもんね。これからはもう気にしないんだもんね〜〜〜と自分に言い聞かせながら購入ボタンを押した。

頼んだのは春の終わりごろのことだったけど、たいそう人気らしく、届いたのは夏の始めのこと。梅雨も終わり、傘が登場する機会はなかなかない。気になっていた美術展へ行く日、とうとう傘を連れ出すことにした。場所柄、今日ならカラフルな傘が浮くこともないだろう。

到着して傘を鍵付きのスタンドに預けているとき、突然「あの……」と声をかけられた。留学生とおぼしき、女性の二人組。ちょっと恥ずかしそうに、傘のほうを指差している。傘スタンドの使い方を知りたいのかな?と咄嗟に思って、説明しようとしたら、そういうことではなかった。

「どこで買いましたか?その傘、かわいい」

見ず知らずの人に持ち物を褒められるなんて、初めてのことだ。嬉しいやら照れるやらで、もごもごとお礼を言う。「ここで買えます」と、通販サイトのURLをAir Dropで共有し(便利な世の中だ)、その場を去った。

名前も連絡先も聞かず、一瞬のやりとりだったけど、このときのことはきっと、傘を差すたび思い出すだろう。雨の日、それぞれの場所でステンドグラスが咲いている光景を思い浮かべてみる。そうすると、ちょっと幸せな気持ちになれる。

片渕ゆり(ぽんず)

1991年生まれ。大学卒業後、コピーライターとして働いたのち、どうしても長い旅がしたいという思いから退職。2019年9月から旅暮らしをはじめ、TwitterやnoteなどのSNSで旅にまつわる文章や写真を発信している。

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