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旅の再開を感じて。スペインの世界遺産「サンティアゴ巡礼の道」へ

世界遺産「サンティアゴ巡礼の道」は、ヨーロッパ各国からフランス、ポルトガルを通ってスペインへとつながる「道」の世界遺産。2022年秋、各国巡礼路の街を、3カ国それぞれの国の担当が同時に旅をして、最終日にサンティアゴ・デ・コンポステーラに全員が集合する(!)という特別企画が実施されました。この記事では、スペインを担当、旅した伊佐知美さんが、「ここにいつか戻ってきて、巡礼路を歩く旅をしたい」と思うようになったという旅の軌跡を、たくさんの写真、そして想いと共にお届けします。

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すべての巡礼路は、サンティアゴ・デ・コンポステーラにつながっている

スペインの北西部・ガリシア州の「サンティアゴ・デ・コンポステーラ大聖堂」

ヨーロッパ各国から人々が目指す場所は、スペインの北西に位置する街、サンティアゴ・デ・コンポステーラ(以下、地名はサンティアゴと表記)。「サンティアゴ巡礼の道」よりも前から、「サンティアゴ・デ・コンポステーラの旧市街」として世界遺産に登録されています。

サンティアゴの街の中心、巡礼路のゴール「サンティアゴ・デ・コンポステーラ大聖堂」がある「オブラドイロ広場」には、世界中から訪れた巡礼者や旅行者が集まる

サンティアゴの街は、ローマ、エルサレムに並ぶキリスト教の三大聖地の一つで、名前の由来にもなった聖人・ヤコブ(スペイン語でサンティアゴ)が眠ると言われている場所。巡礼路のゴールである「サンティアゴ・デ・コンポステーラ大聖堂」がある「オブラドイロ広場」は、時間帯を問わず人通りが絶えません。

大聖堂広場に佇んでいると、スペインはもちろん、フランス、ポルトガルの長い巡礼路を歩いてきた世界中の巡礼者たちが、次々とゴール。一人旅、カップルや家族、グループの旅など、それぞれのスタイルで旅を続けてきた人たちが、見知らぬ人同士でも互いを称え合う姿は、見ているだけで胸がつまる思いでした。なんだか「旅が戻ってきたんだな」と嬉しくなって、ちょっぴり泣きそうになってしまいました。

「サンティアゴ・デ・コンポステーラ大聖堂」を望む旧市街の小道

街はオブラドイロ広場を中心に、美しい旧市街やレストラン、お土産店などが並ぶメインロードや、住民の憩いの場である公園や街を見渡す丘などが広がります。どの小道も建物も、世界中からやってきた巡礼者や観光客であふれ、写真を撮ればたちまち絵になる素敵な場所。世の中に、サンティアゴをテーマにした映画や小説、旅行記などが多く存在するのも納得の美しい街でした。

サンティアゴ市内に無数に広がる魅力的な路地

「サンティアゴ・デ・コンポステーラ大聖堂」の屋根の上を歩くツアーは、世界遺産の巡礼路と世界遺産の街を同時に眺める贅沢な時間を過ごさせてくれる

ローカルの方いわく、サンティアゴのあるガリシア地方は「スペインの北海道」と言ってもいいくらい豊かな食や自然に恵まれている場所。名物はタコや貝類をはじめとした海鮮やチーズ、白ワインなど。レストラン「アバストス2.0」にて

長い道を歩いてきた巡礼者が、最初にサンティアゴの街を見つけて歓喜すると言われる場所「モンテ・ド・ゴゾ=歓喜の丘」。右端に小さく見えるのが、「サンティアゴ・デ・コンポステーラ大聖堂」

住民がよく散歩で訪れるという「アラメダ公園」から見る、連綿と続く歴史を感じさせるサンティアゴの旧市街は、世界中から人を受け入れ続け、そして暮らしも営まれ続けている、「生きた街なのだな」と思いました。

五つ星パラドール宿泊する楽しみも

巡礼には様々なスタイルがありますが、巡礼中や巡礼後に、スペインの古い建物を改装したスペイン国営のホテルグループ「パラドール」に泊まることを楽しみにしている人も多いそう。
今回は、サンティアゴへの経由地のひとつ、中世にはレオン王国として栄えた古都「レオン」の、古い建物を改装した五つ星パラドール「パラドール・デ・レオン」に宿泊。

朝の光が綺麗に入る、南向きの最上階のお部屋「トレオン・スイート」。アンティークの家具と天蓋ベッドがとてもかわいい

パラドールは、スペイン国内に100軒近くあるそうですが、五つ星パラドールは、なんとレオンとサンティアゴの2軒のみ。中でも「パラドール・デ・レオン」は、ルネサンス建築の傑作とも言われる元修道院の建物を改装した荘厳な宿。

ゴシック様式の建物と、ルネサンス装飾をほどこしたスペイン特有のプラテレスコ様式の装飾は、改装後もきちんと残され、ホテルの中をじっくり見て歩くだけでも、半日以上が経ってしまいそうなほど。

住民の憩いの場である「サン・マルコス広場」や巡礼路の「ローマ橋」に面している「パラドール・デ・レオン」は、ホテル敷地内にいるだけで心が満たされます

もちろん、パラドールから徒歩20分ほどでたどり着くレオンの街の中心部にも見どころはたくさん。特に、13世紀から幾度もの改修を重ねて現在の形に行き着いた「レオン大聖堂」のステンドグラスは必見です。

120枚以上のステンドグラスが圧巻の「レオン大聖堂」

レオンの街を一望できる「ホテル・コンデ・ルナ」最上階のレストランも隠れた人気スポット

スペイン生まれの建築家がデザインした「カスティージャ・イ・レオン現代美術館 (MUSAC)」はステンドグラスの輝きに負けず劣らずのカラフルな外観が特徴。レオンを訪れたらぜひ立ち寄って

巡礼路を歩いた証明書は、ゴール手前の100km以上を歩いた人に

現地では、巡礼を志す人は「ペレグリーノ」と呼ばれ、巡礼の大切なアイテムとして「クレデンシャル=巡礼手帳」を持ち歩きます。巡礼には様々な目的・スタイルがあるため、完歩がすべてではなく、多くの巡礼者がサンティアゴを目指す理由のひとつに、「巡礼証明書をもらうこと」があります。

巡礼証明書をもらうための条件は、2つ。1つ目は、サンティアゴにつながる最後の100km以上を歩くこと(自転車の場合は200km以上)。2つ目は、その証明として、巡礼路の各地に散りばめられている「巡礼スタンプ」を、1日2つ以上、「クレデンシャル」に押しながら歩くこと。

クレデンシャルに押された巡礼証明のスタンプ例。スタンプは、巡礼道中のアルベルゲ(巡礼者向けの宿)やホテルなどでもらえます。たとえばサンティアゴやレオンでは、パラドールの受付にありました

巡礼手段は徒歩が主流ではありますが、自転車のほか、途中で電車や飛行機に乗る人など様々。またクレデンシャルは無期限なので、たとえば毎年自分の誕生日前後に数日歩いて、翌年の誕生日に続きを歩き、人生を通して巡礼を完了させる、という方法でもOK。

昔はサンティアゴのあるガリシアで豊富にとれた「ホタテの貝殻」を巡礼の証明として持ち帰ったそう。現在も巡礼路の道標などにホタテモチーフが採用され続けています

最近は、巡礼アプリ、巡礼中の荷物配送など便利なサービスがたくさん登場しているので、自分に合った巡礼スタイルで歩く人がより増えているそうです。

サンティアゴ巡礼は、多様性を受け入れてくれる懐の深い「道」の旅

今回巡礼路の街を巡って特に印象的だったのは、「巡礼路はキリスト教徒以外にも、すべての人に開かれている」ということ。
そもそも、サンティアゴがローマ、エルサレムと並ぶキリスト教の三大聖地である理由は、12使徒のひとり、聖ヤコブ(サンティアゴ)の遺骨が眠っている街とされているからです。7世紀に、スペインのオビエドの王・アルフォンソ2世が、ヤコブの遺骨を確かめるためにサンティアゴを目指して歩いたのが巡礼路のはじまりと言われており、その道は「はじまり」を意味する「プリミティボの道」と呼ばれています。

その後、エルサレム・ローマが政治的背景により巡礼が難しくなる時期が続いたこともあって、サンティアゴは世界中のキリスト教徒が目を向ける場所となり、現在ではキリスト教徒以外の人も、様々な理由で巡礼路を歩くようになりました。
巡礼路は世界遺産に登録される「道」ですが、基本的には巡礼のスタート地点は「自分の家」。なので、ゴールはサンティアゴと明確に定められていますが、「この道から歩き始めねばならない」という厳格な決まりはありません。

出発地点が自由なことと同様に、サンティアゴ巡礼は、様々なことが想像以上に自由です。旅の間、巡礼証明書取得を目指さずに、巡礼路をただ歩く人たちにもたくさんお会いしました。たとえば、週末旅で数キロを家族で歩くピクニック感覚の人や、サンティアゴのみ観光で訪れる人、犬と一緒に数泊の旅行をして絆を深める時間を過ごす人など。「自分と向き合う時間を得たい」という理由で、軽やかに一人旅をする人も多いそうです。

どんなスタイルを選ぶとしても、巡礼路はキリスト教の大切な聖地であることには変わりないので、リスペクトの気持ちは忘れてはいけないと私は思いますが、もともと巡礼路を歩く背景はとても個人的なもの。どんなスタイルでも受け入れてくれる、懐の深い「道」がサンティアゴ巡礼の道なのだと知りました。

これらの知識を現地で授けてくださった、ガイドのハルナ、マリア、イツコさん、アナさんありがとうございました

一生に一度は「サンティアゴ巡礼の道」を歩きたい

今回私は、巡礼路の街を旅したことで、巡礼を終えた人の顔の輝きや言葉、あたたかさなどの魅力に直に触れ、その素晴らしさに気付かされました。旅を終えた今、もう一度巡礼路に触れる時間を過ごしたいと思っている自分がいて、近い未来にサンティアゴ巡礼の道を歩こうかな、と考え始めています。

ものすごく個人的な話ですが、サンティアゴで一年で一番大きなお祭り、7月25日の聖ヤコブ祭は、なんと私の誕生日。もちろん歩くなら、その日を狙いたい……!

巡礼証明書取得のためのミニマム100kmを歩く目安日数は、選ぶ道や個人差もありますが、1日25km歩行計算で、5〜6日と言われています。なので、最短1週間から挑戦が可能です。
もし少しでも巡礼に興味があるという人は、長期休暇を利用して1週間程度の巡礼の旅にまずはトライしてみる、というのもいいかもしれません。巡礼者向けの公営宿「アルベルゲ」は1泊5〜10ユーロほど。私営宿は価格帯が様々ですが、ウェブで予約ができるところが多いので、自分に合った宿を探せます。
事前に予約しておけば、バックパックなど一式の荷物を次の宿まで運んでくれる、なんとも体力に自信のない私にぴったりのサービスも登場しているのだとか。重い荷物を持たずに巡礼路を歩ける、と考えると、「私にもできるかも!」と感じる人は、じつは多いのではないでしょうか。

同じく世界遺産の「道」である熊野古道と、姉妹「道」協定を結んでいて、来年姉妹道となり25周年をむかえるそう。二つの道の巡礼の証明を持っている人は「デュアルピルグリム=二つの道の巡礼者」と呼ばれます。夢が広がる……

あまりにも深い魅力のあるサンティアゴ巡礼の道の旅。
きっと、このデジタル化した世界において、数少なく残った「手触りのある体験」が巡礼旅なのだと思います。いつかの未来、サンティアゴ巡礼の道のどこかで出会うことがあれば、一緒に乾杯できたら嬉しいです。

おまけ:スペイン、フランス、ポルトガル各国の巡礼路の街を旅したクリエイターが、無事サンティアゴに集った際の集合写真

最終日、サンティアゴに全員集合。左から、フランス担当クリエイター「MASHAYA」のMASH&AYAさん、スペイン担当の伊佐、ポルトガル担当クリエイター「RISA RISE / りさらいず」さん

おまけのおまけ。サンティアゴの「Lume」で食べた、ガリシア産のムール貝をふんだんに使ったコロッケ。おいしくて30個食べたかったです

サンティアゴ・デ・コンポステーラ大聖堂 基本データ

<住所>Praza do Obradoiro Santiago de Compostela, 15704 Spain
<TEL>+34 981 569 327
予約専用 +34 902 044 077
<営業時間>大聖堂 7:00〜21:00
巡礼者受付事務所 9:00~19:00 ミサ 7:30 9:30 10:30 12:00 19:30
<休業日>12月25日、1月1日
<駐車場>なし

料金

無料
※特定のエリアは入場券の予約が必要

行き方・アクセス

<電車>サンティアゴ・デ・コンポステーラ駅から徒歩で約18分

Abastos 2.0(アバストス・ドス・プント・セロ) 基本データ

<住所>Rúa das Ameas na Praza de Abastos, Casetas 13-18, Santiago de Compostela, 1570 Spain
<TEL>+34 981 576 145
<営業時間>月~土曜 12:00〜15:30 20:00〜23:00
<休業日>日曜

行き方・アクセス

<電車>サンティアゴ・デ・コンポステーラ駅から徒歩で約18分

モンテ・ド・ゴゾ=歓喜の丘 基本データ

<住所>Santiago de Compostela, 15820 Spain

行き方・アクセス

<電車>サンティアゴ・デ・コンポステーラ駅からバスと徒歩で約45分
<車>サンティアゴ・デ・コンポステーラ大聖堂から約15分

パラドール・デ・レオン 基本データ

<住所>Plaza de San Marcos , 7, Leon, 24001 Spain
<TEL>+34 987 237 300
<駐車場>あり

行き方・アクセス

<電車>レオン駅から徒歩で約12分

カスティージャ・イ・レオン現代美術館 (MUSAC) 基本データ

<住所>Avenida de los Reyes Leoneses, 24 León 24008 Spain
<TEL>+34 987 090 000
<営業時間>火~金曜 11:00~14:00 17:00~20:00
土~日曜、祝日 11:00~15:00 17:00~21:00
<休業日>月曜、1月1日、12月25日
<駐車場>あり

料金

一般 €3

行き方・アクセス

<電車>レオン駅から徒歩で約12分

Lume 基本データ

<住所>Rua dos Ameas 2, Santiago de Compostela, 15704, Spain
<TEL>+34 981 564 773
<営業時間>13:30~15:30 20:30~23:00
<休業日>なし
<駐車場>あり

行き方・アクセス

<電車>サンティアゴ・デ・コンポステーラ駅から徒歩で約15分

スペイン政府観光局
スペインで最も有名な巡礼路を発見しましょう
今回3カ国同時に行われた「サンティアゴ巡礼の道」の取材ルートはこちら

伊佐知美

Somewhere&Here inc. 代表 / Editor, Writer, Photographer
「軽やかに生きる」をテーマに、旅のあるライフスタイルを追いかけて数年。三井住友、講談社、ITベンチャーWasei勤務の後、独立。日本一周、世界二周、四カ国の語学留学、無拠点生活など長年の旅暮らしを経て、2022年に沖縄にて起業。著書に『移住女子』(日・韓)。

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伊佐知美 note

取材協力: Tourist Office of Spain in Tokyo, European Travel Comission, Co-funded by the European Union, Turismo de Galicia

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